日本の金融に訪れるソーシャルレンディングの衝撃

飯田哲夫(電通国際情報サービス)

2008-10-10 10:00

 あちこちで取り上げられているのでご存知の方も多いかと思うが、日本でもようやくソーシャル・レンディングが開始される。ソーシャル・レンディングとは、金銭の貸借取引を金融機関を経由せずに行うもので、Web2.0的文脈で説明すれば、Webで借り手と貸し手を結びつけることで金銭の直接的な貸借取引実現する手法を取る。

 ソーシャル・レンディングの日本におけるビジネスとしては、ProsperZOPAのような欧米勢の日本進出が喧伝されていたが、日本独自のサイトの方が先に立ち上がることとなった。日本においても法的な問題をクリアするのが大変ではないかと思われたが、maneoの場合は自らを貸金業者として登録すると共に、貸し手とは匿名組合出資契約を行う形にして、貸し手が貸金業登録を行わなくても良いようにしている(詳しくは、こちらのインタビューが判り易い)。

日本では少ないWeb系の金融サービス

 米国では、いわゆる金融機関ではないWeb2.0系の企業が金融サービスを提供しようという動きが比較的盛んだ。ソーシャル・レンディング1つ取っても、Prosperはその1プレーヤーに過ぎない。もちろんその中では最有力プレーヤーであることに違いはないのだが、Prosper以外にも、Zopa、Lending Club、Laninoなどが続々と立ち上がりつつある。

 また、ソーシャル・レンディング以外にも、ソーシャル家計簿などの個人金融資産の管理サービス、投資コミュニティの運営サイトも多い。また、新規参入のオンライン証券は、そのサイト内に投資コミュニティを内包しており、取引内容をオープンにしているものもある。

スタートアップと金融機関の微妙な関係

 これらの金融領域のスタートアップ企業と既存の金融機関との距離感は様々だ。例えば、ソーシャル家計簿サービスのWesabeは、極めてアンチ銀行であり、個人が銀行に騙されずに賢くお金の管理を行うことを目指している。それゆえに、金融機関からのスポンサーシップはない。一方、同じ領域にあるmintは、個人の家計情報に基づいて適切な金融サービスの紹介を行うことで、金融機関から収入を得るモデルを構築している。ソーシャル・レンディング・サイトは、米国ではクレジット・ユニオンの競合と位置づけられるが、Zopaのように逆にクレジット・ユニオンとの提携を進めているケースもある。

金融サービスのエコシステム

 こうした米国モデルの面白いところは、ベンチャー・キャピタルの力を借りて、金融サービス・イノベーションのあらゆるニッチを試し、最終的にはそれらが既存金融サービスの補完的仕組みとなったり、あるいは既存の金融サービスに取り込まれるシステムが出来上がっている点である。例えばソーシャル・レンディングでは、いわゆる個人間のローン仲介もあれば、家族間の貸し借りを仲介するもの、よりレーティングの低い人たちをターゲットしたものなど、様々なものが立ち上がってくる。その多くがいずれは消滅するのであろうが、そのうちのいくつかは何らかの形で(独力か売却かは判らないが)生き残り、金融サービスのイノベーションに資するのである。つまり、金融サービスを向上させるためのエコシステムが出来上がっているのである。

日本の金融エコシステム構築へ向けて

 maneoという日本におけるソーシャル・レンディングのサービスは、それ自体が日本における新しい融資のビジネスモデルとしての可能性を持つ。もう1つ、maneoというサービスの立ち上げによって気付かされることは、日本の金融サービスのイノベーションがいかに閉じた形で行われているかということだろう。日本においても金融サービスのイノベーションが活性化するよう、新しいサービスへの挑戦→既存サービスとの補完/融合→金融サービスの向上というサイクルを実現していくことが必要なのではないか、と感じた次第である。

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