ここ最近敵なしだったGoogleであるが、先週開催された「Google I/O」では、Appleをいつになく敵視していたようである。TechCrunchの報ずるところでは、Googleの技術担当副社長が、オープンプラットフォームの重要性を説く一方で、Appleのことを「自由のない未来。一人の男、一つの企業、一つのデバイス、一つのキャリアがわれわれの唯一の選択である未来」として批判したという。しかし、このオープンとクローズの戦い、どこかで見たことがある。
どこかで見た構図
そう、この構図は、もともとGoogleとMicrosoftの戦いの構図であったはずだ。Microsoftがソフトウェアをベースとして囲い込みを実現していたのに対し、Googleはソフトウェアを無償のサービスとして提供することで、その切り崩しを図っていった。
Microsoftはソフトウェアという特定の機能を提供していたから、これを同等の機能を有するオンラインサービスで代替していくことはそれほど難しくはなかった。それに対し、Appleの場合は、以前から述べている通り、単なる機能ではなく、ユニークなユーザーエクスペリエンスを提供しているために、これを代替することは容易ではない。機能やサービスと比して、ユーザーエクスペリエンスというのは、最も真似して作ることが難しいからだ。
しかし、AppleもMicrosoftと同じ時代にOSで争っていた企業同士であり、ある意味において同世代企業である。事実、Appleは1976年、Microsoftは1975年生まれだ。そのため、そのDNAはオープン化以前にあり、企業としてまず囲い込みの戦略を立てるのは自然のことなのかもしれない。ただ、Microsoftがソフトウェアで行ったことを、Appleはユーザーエクスペリエンスで行っている点が大きく異なる。
ビジネスモデルによる破壊力
GoogleがMicrosoftの牙城に食い込む時に使ったのはビジネスモデルの革新である。つまり、ソフトウェアそのもので稼がずに、そのユーザーベースを生かした広告で稼ぐというモデルの確立である。オフィス製品の機能が成熟に向かう中で、こうしたモデルも可能になったと言える。
しかし、Appleの場合、その勝負のレイヤはユーザーエクスペリエンスであり、表面的な機能の充足のみでは対抗することが難しい。ユーザーエクスペリエンスの牙城というものが、単なるビジネスモデルの革新のみで崩せるのかは判らない。
オープン化の特性
オープン化の特性とは、より多くの力を使って、どんどん改良を加えることで、品質・機能が向上することにある。一方で、囲い込みを行うことが難しくなるので、より多くのユーザーベースを獲得して広く薄く長く儲けていくことが必要だ。また、より多くの人が関わり、より多くの人を満足させなくてはならないため、ある一つの思想を貫き通すのは難しくなる。
一方、クローズドなモノ作りでは、一貫した思想を維持してモノ作りができる。究極はアーティストによる美術作品のように、ある一個人の思想そのものを体現することとなる。ただ、それが他の人にも受け入れられるかは大きな賭けであるし、その個人への依存度が非常に高くなる。
ただ、今のAppleの成功は、オープンがすべてではなく、クローズドなイノベーションが持つ力というものを見せ付けられたように思う。一方、これに対抗するGoogleは、きっとオープンであるが故に何ができるかを改めて気づかせてくれるだろう。今後の両社の戦いを期待を持って見守りたい。
筆者紹介
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。