ソフトウェアビジネスの主役は個人へ移ったのか?

飯田哲夫(電通国際情報サービス) 2009年06月15日 19時30分

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ソフトウェアビジネスの主役としての個人

 Thomas Friedmanは、2000年を境としてグローバリゼーションの主導者が企業から個人へシフトしたと主張した(『フラット化する世界』)。それは、インターネットの普及と高速化により、個人レベルでの情報受発信やコラボレーションが容易になり、企業という枠組みに頼らずとも、グローバルな活躍が十分に可能な環境が整ったということである。事実、Wikiやブログなどにより、個人やその集合体が生み出す力がグローバル企業を凌駕する例は多く語られてきた。

 最近ではApp Storeが個人に活躍の場を与えている。2009年4月時点で、3万5000のアプリケーションが77カ国で提供され、ダウンロード数が10億を突破した。参入に要するコストはわずか1万800円である。先日Sun Microsystemsが発表したJava Storeも、個人が開発したJavaアプリをグローバル展開するプラットフォームを提供するものである。これも650万人のJava開発者に対し、10億人のJavaユーザー市場へのアクセスを可能とするものである。

 App StoreやJava Storeは、個人に対してグローバル市場での活躍をする場を提供するものであり、Friedmanの予測がよりスケールアップして実現しつつあるように見える。ただし、これらのケースにおいては、グローバル企業がプラットフォームを提供し、個人はそのグローバル企業が展開する商材(AppleであればiPhoneであり、SunであればJava)の価値を高めるための補完商品の開発に動員されている点である。

ソフトウェアビジネスの補完機能としての個人

 従来であれば、こうした特定の企業の商材に対する補完機能は、個人よりも企業が果たしてきた。たとえば、ゲームのハードメーカーとゲームソフトメーカーがこの関係にある。Nitendo DSは、そのハードで動くソフトウェアが充実してこそ、その付加価値が高まる。それゆえに、より多くのゲームソフトメーカーがソフト開発を行ってくれることを歓迎するのである。しかし、従来であれば、こうした補完機能を果たすためのコストは個人で参入するには大きすぎた。それが、App StoreやJava Storeに見られるように、補完機能が企業レベルから個人レベルにシフトしたこと自体、今の時代を象徴しているように思える。

 しかし、これは主導権がグローバル企業から個人へと力がシフトしたのとは意味が異なる。むしろ、一見企業から個人へシフトしたかに見せつつ、グローバル企業側が主導権を自らに繋ぎとめたと言った方が正しいだろう。つまり、個人が自ら組織化して企業に対抗するというモデルではなく、企業が提供するプラットフォームに個人がぶら下がって、企業に対する補完関係を築くわけである。個人の力が強まったことに対応して、主導権を明け渡さずにうまく活用する術を企業側が見出したとも言える。

新しい主役は誰か

 こうしたモデルを可能とするのは、圧倒的なブランド力や信頼性を持つスーパーパワーとも言えるグローバル企業である。ソフトウェアビジネスの領域において、企業はますます巨大化し、その寡占の度合いが増している。そして、これが一度はそれらを凌駕しかけた個人をも取り込んでいる。つまり、一度は企業と個人へと二極化していこうとしたソフトウェアビジネスが、再度スーパーパワーとも言うべき大企業へと一極化しているように感じられる。

 一極化したが故に大きなマーケットが出現し、特定のプラットフォームの周りでイノベーションが起きているのが今の状況だろう。しかし、このイノベーションも、特定のプラットフォームの制約を受ける以上、二極、あるいは三極くらいはないとバランスが悪くなる。さらなるイノベーションの波は間違いなく起きるだろう。

筆者紹介

飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。92年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。
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