それは、東京都内のある大きな病院の病室は個室しかないのでとても高いのだという話から始まった。ある人は、その病院の個室は値段が高いということ以上に、1人で泊まるのが怖いという。つまり、多くの人が亡くなる病院という場所には、亡くなった人たちの痕跡が浮遊していて怖いのだと。この話、続きはちょっと怖いので別のところで続けるとして、ここでは、そこからインスパイアされた死後のオンラインにおける痕跡について議論したい。
オンライン上の痕跡
われわれの生きた痕跡は物理的なものとしてよりも、より一層デジタル化したオブジェクトとしてネット上に残っていくものが増えている。それはブログであったり、つぶやきであったり、SNS上の人とのつながりであったり、写真であったり、動画であったりする。それを自ら死後も残していきたいという人もいるかもしれないし、遺族や友人がそれを残そうとするかもしれない。
自ら残そうとしてオンライン上のデータを整理している人にはまだ会ったことがないが、友人の中にはアーティストであった父親の作品を紹介するホームページを作っている人、あるいは新聞記者であった父親の活動の軌跡を紹介するブログを開設している人がいる。
人の死とマネタイズ
一方で、こうした人の死をオンライン上の記憶として留めることをビジネス化しようという動きもある。TechCrunchの記事に、新聞へのオンライン死亡広告を中心としたビジネス展開をするLegacy.com、死んだ人を記念するサイト作成を支援するRespectanceなどが紹介されている。
Legacy.comは、死亡広告はもちろん有料であるが、それに対してゲストブックなる機能が付与されていて、そこへ死亡広告を訪れた人がコメントを残せるようになっているらしい。が、そこへコメントを残そうとすると、コメントを残せる期間ごとに(1カ月とか、永久だとか)チャージされるような仕組みになっている。一方、Respectanceは、3週間の無償トライアル期間があって、そのあとは有料のようだが、それがいくらであるかはサイトには書かれていない。
先のTechCrunchの記事では、Legacy.comの課金方法を批判的に記述しているが、そこには人の死をビジネスの素材とすることの難しさが付きまとう。人の死に対するお悔やみの言葉を残そうとしたときに、「1カ月だとxxx円」、「永久に残したいならxxx円」などと問われると実に気分が悪いものだ。一方、Respectanceのような死者の記憶を留めようとするサイトについては、当事者自身がすでにいないこと、またそのサイトの維持を果たして遺族がいつまで続けてくれるのかという問題が付きまとう。
人の死は新しいオンラインビジネスを生むのか
こうしたオンライン上に人の痕跡を留めていこうというビジネスは、当事者が不在であることから、永続的なキャッシュを担保することが難しい。墓地が永代供養まで込みにした初期費用のみで販売されているのも同様の理由によるだろう。