景気後退期の直後だった1990年代の初め頃、筆者は統合基幹業務システム(ERP)を手がけるある企業の最高経営責任者(CEO)と率直な談義を交わしたことがある。このCEOは悲観的になっていた。というのも、厳しい経済状況のなかで事業の成長が阻害されており、自社のアプリケーションを支えるプラットフォームを管理していたIBMも独自の問題を抱えていたことで、ちゃんとしたサポートが得られるかどうかを判断できなかったためだ。
企業のIT部門は当時、まだ第1世代とでも言うべき状況だった。その頃のIT部門は、業務プロセスの効率向上や、顧客レコードの保管、報告書の作成に携わっているだけでよかった。
その後1990年代半ばになると、ITプロフェッショナルという仕事にとてつもない変化が訪れた。テクノロジストがマーケットメーカーになったのだ。彼らは企業の運用効率を向上させる立場から、業務改革を主導する立場へと躍進した。そして商用インターネット/ウェブの興隆に伴い、ITプロフェッショナルらは顧客や市場とのエンゲージメントを実現するさまざまな手段を手にした、まったく新たな企業を生み出すための道を開いたのだった。エンジニアリングとコンピューター科学のバックグラウンドを有するJeff Bezos氏はAmazonを立ち上げた。また、コンピューター科学の学位を有するLarry Page氏とSergey Brin氏はGoogleを立ち上げた。そしてLinkedInは、コンピューター科学者であるRied Hoffman氏によって創業された。これらすべての企業を支えていたのはもちろん、成長し続ける大規模ITチームだった。
要するにITプロフェッショナルたちは、停滞し、手詰まりとなった経済システムの活性化に一役買ったのだ。そして現在、同様の状況が発生しており、農業技術の新興企業Indigo Agといった、テクノロジー/データ駆動のディスラプターらが人工知能(AI)を活用して種子の品質向上を実現している。また、Rent the Runwayは人々がおしゃれな衣服で身を包めるようにするためにデータとAIを活用しており、Stripeは世界規模での電子決済の普及に向けてAIと接続性を活用している。あらゆる業界のディスラプションの背後には必ず、世界を変えようと(あるいは少なくとも世界におけるやり取りの方法を変える)準備を整えている、明確なビジョンを持ったITプロフェッショナルがいる。