新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う企業への影響は多方面に及ぶが、ここ数カ月のIT企業幹部への取材を通して聞かれるのは、「デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みが大きく停滞していない」という声だった。しかし、コロナ禍の前後でDXに対する企業の意識には変化が生じている。今後のDXの推進で求められるポイントについて、アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 テクノロジーストラテジー&アドバイザリーグループ日本統括の村上隆文マネジング・ディレクターに聞いた(取材はオンラインで実施)。
DXに求められること
DXの大まかな定義は、ITをはじめとするテクノロジーを活用して企業のビジネスモデルや組織、体制、文化といったさまざまなものを変えながら、新しいビジネスや価値を創出したり、経営や市場の環境変化に対応したりしていくことにあるだろう。
![アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 テクノロジーストラテジー&アドバイザリーグループ日本統括 マネジング・ディレクターの村上隆文氏](/storage/2020/06/01/eda512c9d3df9f74363007852be43cd5/accenture_murakami.jpg)
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 テクノロジーストラテジー&アドバイザリーグループ日本統括 マネジング・ディレクターの村上隆文氏
村上氏によれば、DXにつながる契機は2008年の金融危機にあった。世界中の金融機関が深刻な資金不足に陥り、企業の財務基盤も揺らいで事業継続が危ぶまれた。同時に、急拡大するスマートフォンやクラウドコンピューティングといった新しいテクノロジーを活用し、既存のビジネスモデルにとらわれない新しいモデルで急成長するスタートアップやベンチャーによる「デジタル破壊」の波も到来した。
金融危機のダメージを受けた企業は、その回復と新しい成長を目指してテクノロジーをビジネスへ積極的に取り込もうとするようになった。村上氏は、その一例に「Fintech」を挙げる。大手の銀行がさまざまなスタートアップと手を組み、モバイルやクラウドを活用した新たなオンラインサービスを次々に開発して顧客に提供した。
金融危機以前のITの役割は、あくまで既存ビジネスを支え効率化などを支援するものだったが、以降は既存ビジネスを変えたり新規にビジネスを創出したりするための原動力として重要性が増していく。そうしたITの重要性は2018年頃からDXと呼ばれるようになり、COVID-19の流行前には、あらゆる企業で競争優位性を確保したり差別化を図ったりするための経営テーマとして比重が高まり出していた。
村上氏の見解では、金融危機を契機とする過去十数年のITによる企業の変化は、今回のCOVID-19がもたらす危機でさらに加速されていくという。「COVID-19によってDXにおける優先事項が明確に変わったといえる。新型コロナウイルスの再流行という危機が繰り返される可能性を伴う『ニューノーマル』と呼ばれる世界では、企業は常に変化し続けないといけなくなる」(村上氏)