アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWS)は3月2日、2021年の事業戦略説明会を開催した。同日付でローカルリージョンとして運営していた大阪をフルリージョンに移行し、国内では東京との2つのフルリージョンでサービスを提供することを発表した。
AWS大阪リージョンの概要
説明会の冒頭で代表取締役社長の長崎忠雄氏は、2011年3月2日の東京リージョン開設から10周年という節目に、大阪をフルリージョンの拠点として新たにサービス提供する意義を強調した。大阪では、100キロ以内にある複数データセンター群で可用性などを高めた「アベイラビリティーゾーン(AZ)」を3つ確保する。
長崎氏は、西日本地域の企業や組織が今までよりも低遅延のサービスを利用でき、ミッションクリティカルシステムも運用しやすくなるほか、東京リージョンと組み合わせたITシステムの災害対策をより強化できるとした。説明会で政府の平井卓也デジタル改革担当大臣がビデオメッセージを寄せたほか、三菱UFJフィナンシャルグループやソニー銀行、NTT東日本などが大阪リージョンのユーザーであることを発表した。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン 代表取締役社長の長崎忠雄氏
2020年の事業動向について長崎氏は、2757の新機能追加やユーザー、パートナー数の増加など継続的な成長ぶりを紹介するとともに、コロナ禍でクラウドへの移行が加速しているとし、「進化の機会を得た1年であり、クラウドの進化がもたらすスモールスタートや必要な時に必要なだけ使うといった利点を生かし、価値創造に集中するシーンが広がった」とコメントした。
事例では、IQVIAジャパンと慶應義塾大学、LINEが2週間で新型コロナウイルス感染症の状況を管理するための「LINEパーソナルサポートプロジェクト」のシステムを構築している。会場講演などが開催困難となったエンターテインメント業界では、サイバーエージェントとLDHが合弁でCyber LDHを設立し、5人のエンジニアだけで数十万人が利用する大規模配信基盤を開発したという。クラウド人材の育成に向けたオンライントレーニングも増強して10万人以上が受講したといい、認定資格者は57%増加したとしている。
2021年の注力分野について長崎氏は、「国内インフラストラクチャーの拡充」「クラウド移行加速のための顧客支援体制の強化」「次の10年を見据えたクラウド人材育成」を挙げた。インフラストラクチャーの拡充の目玉が大阪フルリージョンの開設になる。
顧客支援体制の強化は、特に大規模なクラウド移行プロジェクトをスムーズにするための「AWS Migration Acceleration Program(MAP)」を新たに提供し、計画から運用まで一気通貫でサポートするとした。顧客には専任のカスタマーサクセスマネージャーがアサインされ、クラウド化後の継続的な利用を支援する。
「AWS Migration Acceleration Program(MAP)」
また、業界特化型ソリューションのメニューやサービス提供の体制も拡充し、製造や自動車、金融などで求められるクラウドプラットフォームやクラウドを生かした人工知能(AI)関連サービスなどの展開を進める。長崎氏は、クラウド移行では組織トップのビジョンや意識の明確化が成否を分けるとも述べ、エグゼクティブブリーフィングセンターを通じたオンライン支援などを強化していくとした。スタートアップ企業も支援も拡充し、新たに自己資金型で1000ドル分のAWS利用クレジット(2年間有効)と350ドル分のデベロッパーサポートクレジット(1年間有効)を提供する「AWS Activate Founders」プログラムを開始する。
パートナーもコンサルティング領域で337組織、テクノロジー領域で291に増え、新たに国内初のディストリビューター契約をダイワボウ情報システムと締結したことを発表。今後は全国で地域密着型のクラウド化支援策を展開していく。
クラウド人材の育成では、特にクラウドアーキテクチャーの設計スキルを必要とする労働者数が年40%ペースで増加するとの予測に基づき、無償のクラウドコンピューティングスキルトレーニングを実施していると説明。新たに社会人向けの「AWS Educate」や求職者向けの「AWS Academy」を開始する。専門学校などのエンジニア志望者向けの「AWS Robot Delivery Challenge」も好調だとした。
クラウド人材育成の取り組み