iPhoneがもたらしたモバイルアプリ市場が変革期を迎えている。これまでゲーム中心だったモバイルアプリが、デジタルトランスフォーメーション(DX)、そして、コロナ禍の生活スタイルの変革により多様化しつつあり、さらにはAppleやGoogleのプライバシー対策からマーケティングにも変化が求められている。
モバイル市場データとアナリティクスの米App Annieで最高経営責任者(CEO)を務めるTed Kranz氏と日本代表の上村洋範氏に、モバイルアプリの世界でいま起こっていることについて聞いた。
--iPhoneが登場して14年が経過します。モバイルアプリの進化をどのように見ていますか。
Kranz氏:スマートフォン黎明期のアプリは、ユーザーの獲得が主なフォーカスでした。App Annieは2010年に創業し、ここでアプリの株価指数のようなモバイルアプリのパフォーマンスのメトリクスを作成しました。
App Annie 最高経営責任者のTed Kranz氏
ユーザー獲得の次は、マネタイズして収益を上げることが課題になりました。ここでゲームは重要な役割を果たしました。現在でもApp Storeの売り上げの3ドル中2ドルがゲームです。
現在のトレンドとして、WindowsとmacOSがモバイルからデスクトップまでさまざまな端末で使えるユニバーサルアプリ化を進めていることです。「アプリがどこにでも(Apps Everywhere)」の世界が近づいています。モバイルの第2世代――モバイル2.0に入りつつあるといえます。デバイスをまたいだアプリの利用が可能になるので、一貫性のある体験を提供する必要があります。デバイスを超えて共有する消費パターンになるでしょう。
マネタイズの点では、サブスクリプションが広がっています。定期的に収入を得られるサブスクリプション形式は、消費者の受け入れも進み、定着しつつあります。このチャンスをどう生かすか。無料のアプリはあふれており、どのようにして価値を感じてもらいサブスクリプションにするのかを考える必要があります。
--モバイル分野のトレンドとして、プライバシー対策があります。
Kranz氏:Appleは、iOSで端末固有の識別子である「IDFA(Identifier for Advertisers)」のポリシーを変更しました。Appleのデータを見ると、オプトインするユーザーの比率は1桁と、極めて低いレベルです。これまでのユーザーアトリビューション(成果につながるまでのさまざまな経路や要因を調べること)の時代は終わったと考えていいでしょう。
幾つかのことが予想されますが、まずファーストパーティーデータの重要性が高まるでしょう。また、幾つかの特化型のスーパーアドネットワークとして、コンソリデーションが進むと考えます。スーパーアドネットワークでは、より深い情報が得られます。そして、アプリで利用するSDK(開発キット)の利用も注意が必要です。また、市場データの重要性も高くなります。
われわれは、ここで市場インサイトの「App Annie Intelligence」、広告アナリティクスの「App Annie Ascend」、アプリのパフォーマンスを管理できる「App Annie Connect」を提供しています。
これらにより、ファーストパーティーデータとサードパーティーデータの融合が可能になります。モバイル市場に関するデータと広告エコシステムからのデータを組み合わせることで、広告戦略を支援できます。確定的なアトリビューションを使った深いデータの収集が難しくなっているので、幅広いデータを使って進める必要があります。ここでわれわれは、精度の高い人工知能(AI)を開発しており、市場のシグナルが得られ、予測が立てやすくなります。
上村氏:日本でもこの問題に関心はありますが、企業のマーケティング担当はエージェンシーに任せていることが多いため、対策が遅くなりがちです。今回のような大きな変更があった時に自分たちで理解し、自社にとって最適な判断を下すことができるのかという課題が露呈したといえます。
--DXに注目が集まっていますが、モバイルはそこでどのような役割を果たせるのでしょうか。
Kranz氏:DXは複雑で、数年がかりの作業になることがほとんどです。日本を訪問すると、日本企業からモバイルアプリの活用についてよく相談を受けますが、モバイルトランスフォーメーションを進めること、つまり、モバイルファーストのアプローチを進めることをアドバイスしています。DXよりもはるかにシンプルで、高速に進めることができ、成果もすぐに得られます。
例えば、自動車業界はIoTの活用が進んでおり、アプリでドアをロックするなど、アプリ主導になっています。スマートフォンは人々の生活の中心にあるデバイスとなっており、どの業界でもアプリを活用できる道があり、これを模索する必要があります。ひょっとすると補完的なものかもしれません。例えば、顧客サポートや顧客サービスは、直接マネタイズにはつながりませんが、顧客のロイヤリティーという点では重要です。
App Annieは、幹部向けに「Pulse」として、トップダウンでモバイルアプリの状況を把握できるアプリを提供しています。モバイルパフォーマンススコアとして、共通要素から自社がどのぐらいのパフォーマンスなのかがすぐに分かります。このモバイルパフォーマンススコアは、コア製品にも入れていきます。
Pulseの最新機能としては、ニュースフィードを導入します。AIを使ってユーザーに関連すると思われる情報が表示される機能です。現在PulseはiOSのみに対応していますが、将来的にAndroidでも利用できるようにします。
--日本企業の活用事例は。
上村氏:App Annieは世界で1200以上の顧客を抱えており、日本は国レベルで米国に次いで2番目の規模です。多くのお客さまが競合分析、市場機会の探索、海外のプレイヤーの研究などの用途にApp Annieを活用しています。
App Annie 日本代表の上村洋範氏
モバイルファーストの事例では、カシオとアシックスの「Runmetrix」があります。2社ともにハードウェア企業で、これまでならハードウェア企業同士が手を組むというのは、ハードルがありました。デジタルの世界では、モバイルアプリが介在役となってくれます。
Runmetrixは、カシオのウェアラブルデバイスに対する知見とアシックスのスポーツ工学をはじめとした知見を組み合わせたものです。アシックスには、ランニングアプリ「Runkeeper」とランニングシューズもあり、2社がランナーをオールインワンでサポートできます。
日本のスマートフォン利用時間はこの2年で1時間増えています。このように成長しているチャネルを活用しない手はありません。