クラウドコンピューティングは今や、エンタープライズコンピューティングにおける絶対的な地位を確立したと言って差し支えないだろう。多くの企業はハードウェアとソフトウェアの購入をやめて、世界中の巨大な匿名データセンターでサービスをホストするベンダーからハードウェアとソフトウェアをレンタルする形に切り替えた。
テクノロジーアナリストは、新しいコンピューティングワークロードの大部分がクラウドで直接実行され、ほとんどの企業が数年以内にクラウドファーストポリシーに切り替えると予測している。クラウドへの総支出額はまもなく5000億ドルに達する見込みだという。
これには相応の理由が多数ある。クラウド企業は、SaaSであれIaaSであれ、その他のXaaSであれ、自社で提供するサービスの専門家であり、同じサービスを膨大な数の顧客に提供することで、規模の経済を享受できる。大半の企業は、電子メールサーバーや請求書発行システムの運用に関する専門知識があっても実際に競争で優位に立てるわけではないため、それらのテクノロジーの専門家になる必要はない。したがって、こうしたコモディティテクノロジーをクラウドプロバイダーに任せることは理にかなっている。
とはいえ、クラウドへの移行のあらゆる結果が解決されたわけではない。
レンタルは購入よりも費用がかかる場合が多いため、クラウドのコストの抑制が今なお多くの企業の課題となっている。また、自社のニーズに最適なサービスを選択し、それらのサービスを組み合わせて利用するハイブリッドクラウドが、人気を集めているところだ。ほとんどの企業は、自社のインフラストラクチャー全体を1社のプロバイダーに任せたいとは思わない。サービスの障害は起きるものだし、どんな企業にもバックアップオプションが必要だ。クラウドでのベンダーロックインのリスクは避けたいと考える企業が増加している。
クラウドコンピューティングがスキルに与える影響はもっと複雑だ。確かに、クラウドへの移行によって、基本的なサービスを自社で管理する必要がなくなったため、テクノロジー関連の仕事がいくつか消失した。テクノロジースタッフは職務をシステムの保守から新しいシステムの開発へと変える必要があるだろう。おそらく、複数のクラウドサービスを結びつけて開発することになるはずだ。これはクラウドから新しいサービスを作り出したい企業にとって重要になるが、多くのスタッフは管理者から開発者への転身のために、これまでと大きく異なるスキルが求められる。それを望まない者もいるだろう。
また、そうした管理者の仕事がなくなると、ITのキャリアパスも変化していく。昇進したいテクノロジースタッフにとっては、プロジェクト管理、イノベーション、チームワークに関するスキルがこれまで以上に重要になるだろう。
現時点で、クラウドコンピューティングに対する明らかな反発はみられない。大規模な障害が何度か発生したにもかかわらず、クラウドは大半のアプリケーションと大多数の組織にとってビジネス上の利点があるという意見は、ほとんど揺らぐことなく支持されている。だが、その判断の結果として生じると予測される影響は、数年先まで現れないかもしれない。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。