1社のクラウドプロバイダーに依存するのではなく、さまざまなサプライヤーのクラウドコンピューティングアプリケーション/サービスの使用を検討するのが、マルチクラウド戦略だ。これにより、ベンダーによる囲い込みの回避、(複数製品の比較検討による)より有利な利用料金、万一の障害に対する耐性の強化といった利点を得られる可能性がある。
大半の企業は、オンデマンドのテクノロジープロビジョニングの導入に際して、マルチクラウドのサポートを検討事項として挙げており、その割合はデジタルトランスフォーメーションを完了した企業が83%で、実施中の企業が81%であることが、International Data Group(IDG)とGoogleの調査で明らかになった。
ゴルフのヨーロピアンツアーとライダーカップの最高技術責任者(CTO)であるMichael Cole氏は、マルチクラウドアプローチの採用こそが、組織のオンデマンドITシステムおよびサービスを安定したデジタルトランスフォーメーションプラットフォームにする最善の方法だと信じるテクノロジーリーダーの1人だ。
「それが正しいアプローチだと信じている」とCole氏は語る。「クラウドプロバイダー関連のリスクを軽減し、ハイブリッドなアプローチを実現するために、この先間違いなく検討していくことになるだろう」
Cole氏によると、マルチクラウドの最大のメリットはリスク管理だという。ワークロードを複数のプロバイダーに分散させておけば、予期せぬ障害の発生に対処できる。むしろ、こうしたメリットは、支出が多少増えたとしても、コストに見合う価値がある、と同氏は述べた。
「私は何かを検討するとき、常にコストよりもリスクを重視する」とCole氏。「その点では、スケールメリットが多少失われる可能性も十分ある。しかし、実際のところ、環境の安全性が大幅に向上するのであれば、その方がテクノロジーの状況という点で良いことであるはずだ」
同氏の組織はMicrosoft Azureを多く使う傾向にあるが、さまざまな環境でホストされる外部プロバイダーの他のサービスも利用している。
「自前のシステムがあるところではAzureを使用することが多いが、WorkdayやSalesforce、各種専門アプリといったサードパーティーのサービスも同様に幅広く使っている。これらのサービスの多くは、AWSなどの代替クラウドプロバイダーがベースだ。したがって、われわれは多くの点で、すでにマルチクラウドのテナントということになる」
他の最高情報責任者(CIO)も同様のアプローチをとっており、新規アプリケーションの導入の際に、さまざまなサービスプロバイダーを利用する。アナリスト企業Gartnerは、全世界のクラウド支出額が2021年の4080億ドルから増加し、2022年には4740億ドルに達すると予測している。
むしろ、マルチクラウドプロビジョニングへの移行は、オンデマンドで提供されるアプリケーションやデータが増加したことによる予期せぬ副次的効果という見方もできる。
CIOや基幹業務部門の幹部は、クラウドへの依存度を高めていき、多数のサービスプロバイダーと新たな契約を締結した。その結果、多くのCIOにとって、マルチクラウド戦略が事実上の既定路線になった。