ガートナージャパンは8月4日、ロシアのウクライナへの侵攻といった地政学リスクの高まりが日本企業のIT調達に重大な影響を及ぼすとの見解を発表した。コストやデータ保護、サポートなどに影響が出る恐れがあり、リスクから免れないとしている。
同社は、日本企業の使用するクラウドサービスや業務ソフトウェアの多くが海外ベンダー製であり、海外拠点のITシステムの保守なども現地ベンダーを利用していることから、特定地域における政治的・軍事的緊張の高まりがもたらすリスクにさらされているとする。
アナリスト バイス プレジデントの海老名剛氏は、地政学リスクへの対応が新たな課題になっており、特にソフトウェアやクラウドサービスの調達では自社に及ぼす影響をあらかじめ評価して、ベンダーと必要な交渉を行うべきと指摘する。
コスト面では、既に急速に進んだ円安や世界的な物価高によって、ITの製品やサービスの価格が値上がりしており、仮に円安に歯止めがかかったとしても、開発者の人件費やデータセンターのエネルギー費用などの価格の上昇が続く可能性があるという。
データ保護では、日本を含む多くの国々が国外への重要データの持ち出しを規制する動きが出ており、クラウドサービスではデータセンターが複数の国に分散していることから、国によってユーザー企業でもデータを持ち出したり、地域間のデータアクセスが制限されたりするとしている。
またバージョンアップやサポートについても、特定の地域からベンダーが開発やサポートを撤退し、それに伴ってサービスレベルが低下することが懸念される。リモート対応に切り替えても、ベンダーのサポート担当が顧客システム環境に直接アクセスして障害の原因を突き止めるといった支援ができなくなる例も出ている。
海老名氏は、「国内にはベンダーとの契約交渉に不慣れなITリーダーが一定数あり、契約に先立って十分に交渉できていない場合も散見される。地政学リスクの影響が大きくなる今後はベンダーとの交渉の重要性はさらに増すため、交渉のための十分な時間を調達計画に盛り込むことが大切だ」とコメントしている。