これからのデジタル社会ではデータの取り扱いやセキュリティ対策が一層重要となる。しかも技術面もさることながら、「地政学的リスク」にも注視する必要がある。特に日本の行政や企業はもっとこのリスクに危機意識を持つべきだ。ということで、今回の「一言もの申す」はデジタルの地政学的リスクについて述べたい。
グローバルデータの因果応報におけるリスクとは
国際政治学者のIan Bremmer(イアン・ブレマー)氏が率いる米調査会社Eurasia Group(ユーラシア・グループ)が先頃、現在の国際情勢を踏まえた上で「2021年の世界の10大リスク」を発表した。その内容は図1の通りである。
図1:2021年の世界の10大リスク(出典:Eurasia Group)
筆者が注目したのは、5位に「グローバルデータの因果応報」、6位に「サイバースペースの転換点」と、デジタルに関わる点が2つ挙がっていることだ。同社のレポートから、それぞれの要点を抜粋しておこう。
まず、5位のグローバルデータの因果応報については、「かつて中国はデジタル情報の流通をコントロールしようとする点で、特異な存在であった。しかし、今ではそのやり方は普通となっている。2021年には、機密データの越境流通が低迷するか、場合によっては停止し、自由なデータ流通に依存するビジネスモデルに混乱が生じる」と指摘し、続けて次のように述べた。
「米国のバイデン新政権下でも米中テクノロジー冷戦は続き、その主戦場は『データ』となる。中国政府は、米国のテクノロジーへの依存を減らし、クラウドやソーシャルメディアなどの分野で国内市場を米国企業へ開放することに抵抗しつつ、データ主権の推進を加速させるだろう。米国は、米国民の個人情報、そして発電所や輸送システムなどの重要なインフラにつながれた膨大な数のネット監視装置によって生成されるデータが、中国の影響下にある企業によって制御される可能性のある機器を通過しないことを確実にするように努めるだろう」
さらに、「データ主導の5G(第5世代移動通信システム)や人工知能(AI)革命が勢いを増しつつある現在、自国民のデータに誰がどのようにアクセスしているのか懸念を持つ各国政府が、オープンでグローバルなインターネット自体の基盤を揺るがしつつある」とし、次のように続けた。
「世界中の関係当局は、自国民の個人情報が敵の手に渡り、AIアルゴリズムの改良、世論の操作、あるいは脅迫といった目的のために利用される可能性をますます警戒するようになっている。世界最大の経済大国で最大の人口を擁する民主主義国が、こうした懸念を理由にアプリの禁止を企図することは、他国がそれに追随することを促すだろう」
まさにこれから起こり得ることを予見している。