「DXジャーニーマップ」の最後のフェーズがデジタルトランスフォーメーション(DX)の浸透と定着化です。DXが一過性の取り組みに終わることなく、全社的な取り組みとして定着化するためには、会社全体の仕組みがデジタルを前提に組み立てられ、全従業員の行動も変容することが求められます。DXの定着化は、1つのゴールであると同時に、終わりのない長い旅路の一里塚ともいえます。
DX の浸透と定着化の進め方
前回までは6回にわたって「DX推進のための環境整備」について述べてきました。今回からは、DXジャーニーマップの最後のフェーズである「DXの浸透と定着化」について解説していきます。
企業内の環境整備によってDXを円滑に推進するための社内環境が整ったとしても、それを持続させるためには、デジタルの時代に即した新しいやり方や考え方をしっかりと社内に定着させなければなりません。デジタル化した業務プロセスや変革した制度などが、社内に浸透せず「先祖返り現象」を起こしてしまうことを避けるためです。
DXの環境整備で新たに設定された制度や権限などの新しい社内ルールは公式に明文化され、それに即した運用がなされている状態を保つようにモニタリングしていく必要があります。また、新しい仕事の進め方やルールを業務プロセスや情報システムに組み込むことで、「仕組み化」することが推奨されます。業務プロセスや情報システムに組み込んでしまえば簡単に元に戻ることはありません。
DX推進のために組織体制を整えたり、人材を確保・育成したりしたとしても、それが一度限りの対応にとどまっていたのでは環境変化に適応していくことはできません。働き方、社内のコミュニケーションの在り方、意思決定のメカニズム、指揮命令系統などの組織マネジメントの考え方といった企業のあらゆる枠組みを再考し、デジタルの時代に適合するものへと継続的に変革していくことが求められます。
DXによって実現した新しい方式や取り組みが会社の仕組みとして、誰もが意識することなく運用されるよう、企業の枠組みだけでなく、従業員一人一人の意識や行動様式も変容しなければなりません。目指す姿は、新しい方式や取り組みが通常の仕組みとして意識することなく運用されており、その仕組みをビジネス環境の変化に応じて柔軟に適応させていける状態です(図1)。
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DXが浸透・定着化した企業の姿とは
DXが浸透・定着化した企業とは、どのような姿となっていることを意味するのでしょうか。DXのジャーニー(旅路)に終わりがあるわけではなく、企業はビジネス環境の変化に適応し続けるために継続的に変革を推進していかなければなりません。また、業種やそれぞれの企業が掲げるビジョンによって、DXの先に目指す姿やゴールは異なります。
ここでは、デジタルの時代での生き残りをかけて、先駆的にDXを推進して企業が共通して実現しようとしている企業像を鑑みて、その要件を考えていきます。詳しくはこれから5回にわたって順に述べていきますが、元の状態に先祖返りすることなく、DXの活動や新しい取組みが全社に広がり、その成果が維持されるためには以下に示す5つの要件が必要となります(図2)。
- デジタルを駆使した仕事と働き方
・場所や物理的な制約を意識することなく多様な働き方と業務遂行ができる
・誰もがデジタルツールを自在に使いこなし、生産性の高い仕事ができる
・機械でできる仕事は機械に任せ、人は高付加価値な仕事に集中できる - データドリブンな意思決定
・ビジネスや業務のあらゆる状況が可視化・共有され、誰もが意思決定に関与できる
・仮説を検証するために実験を行い、その結果によって判断を下す
・誰もがデータに基づいて意思決定し、自律的に行動できる - 多様な人材と柔軟な組織運営
・多様な人材が互いに対等で、自由闊達(かったつ)に意見を出し合うことができる
・個人の組織への貢献が可視化され、正当な報奨が与えられる
・自前にこだわらず、外部を適宜柔軟に活用する - 創造的な挑戦を促進する組織カルチャー
・誰もが創造的な活動ができる権限と自由が与えられる
・新しい取り組みに挑戦でき、他から協力が得られ、称賛される
・リスクを許容し、失敗から学ぶことができる - 持続可能性と回復力を持った事業構造
・顧客や取引先の要求やニーズに迅速かつ柔軟に対応することができる
・環境変化に適応して事業を維持・発展できる
・不測の事態に遭遇しても、すぐに立ち直ることができる
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