オムニチャネルは既存顧客の囲い込みや単価上昇を狙うべき--エスキュービズム

大河原克行

2014-10-15 10:00

 「“O2O(Online to Offline)”は新規顧客に効果。“オムニチャネル”は顧客の定着化に効果がある」――。こんな結果が、エスキュービズム・テクノロジーの調査で明らかになった。

 O2Oとオムニチャネルは同義語で語られることも多いが、本来、その意味や役割、狙いは異なる。では、この違いはどこにあるのだろうか。そして、どんな成果が出ているのだろうか。

現場の実態はどうか

 エスキュービズム・テクノロジーは7月に「オムニチャネル構築実態レポート2014」を発行。約半年をかけて、24社の企業を訪問し、対面で調査。24社が持つ4885店舗を通じたオムニチャネルの実態を明らかにした。

武下真典氏
エスキュービズム・テクノロジー 代表取締役社長 武下真典氏

 エスキュービズム・テクノロジー代表取締役社長の武下真典氏は、「報道では、オムニチャネルが頻繁に取り上げられるようになっているが、このレポートでは、現場での実態はどうなっているのかを調査することが目的としている」と語る。

 「オムニチャネルは、2013年末にセブン&アイホールディングスが本格参入を発表。今後5年で1000億円を投資するとしたことで注目を集め、小売業が参入し始めた。だが、大々的に取り上げられた後にはどうなっているのかということは報道されない。その辺りの実態を浮き彫りにした」と続ける。

 エスキュービズム・テクノロジーは、オムニチャネルやO2Oのソリューション、EC構築事業などを提供している企業で、中堅の小売業や外食業を中心に約1000社への導入実績を持つ。主な導入企業として、ローソンやドン・キホーテ、ココカラファイン、丸善&ジュンク堂、ハードオフなどがある。

 ECサイトやO2Oシステム、オムニチャネルに対応した総合パッケージソフト「EC-Orange」を提供している。EC-Orangeシリーズに関連して、店頭でタブレットなどで接客、注文受付、決済、配送、在庫管理を行う店舗業務改革ソリューションである「EC-Orange POS」シリーズも提供している。

 「EC-Orange POSシリーズは現在、3400以上の店舗で導入されている。飲食店で店員が注文を取る際に、2タップで表示できる“2タップオーダー”や、地図から住所を逆引きできる“Orange Gift”といった特許技術も特徴。レガシーなPOS(販売時点情報管理)が持つ基本機能をほぼ搭載し、1時間に400件を決済処理できる。タブレットPOSよりも豊富な機能を備えているのが特徴。EC-Orangeでは、ベンダーフリーでさまざまなニーズにあわせて柔軟にシステムを構築できるのが特徴であり、多くの顧客の声を聞き、製品に反映させているのが強みになる」(武下氏)

O2Oとオムニチャネルを混同

 武下氏はO2Oをこう説明する。

 「O2Oは、オンラインとオフラインの購買活動が連携しあい、さらにオンラインでの活動が実店舗などでの購買に影響を及ぼすとことを狙っている。会員証やDM(ダイレクトメール)をスマホのアプリに集約し、顧客へのサービス充実を図ったり、動向を分析したり、あるいはネット上の消費者にクーポンやポイントを付与して店舗に誘引したりする例がこれにあたる。

 対するオムニチャネルはこうなる。

 「オムニチャネルとは、実店舗やオンラインストアをはじめとするあらゆる販売チャネルや流通チャネルを統合することで、総合販売チャネルを構築して、どのような販売チャネルからも同じように商品を購入できるようにするものを指す。店舗とウェブサイトで在庫情報や会員IDを統合。物流も統合し、シームレスな購買体験を提供できるようになるのがオムニチャネルだ」

 だが、「多くの企業がO2Oとオムニチャネルを区別していないのが実態」だという。

 「O2Oは、クーポンやポイントを付与することで、来店頻度や購入頻度が増加し、新規顧客獲得に即効性があるという結果が出ており、それを認識している企業も多い。しかし、その一方で、その後の客単価向上、リピーター獲得までにはつながっていないという課題も出ている。多くの企業は、新規顧客の獲得よりも既存顧客の囲い込みを課題と考えており、その点ではO2Oには限界がある」と語る。

 その点では、既存顧客の囲い込みには、オムニチャネルの方が適していると言えそうだ。

 オムニチャネルの実現で重要な鍵を握るのは、店舗とECサイトのポイントプログラムの共通化だ。だが、これを実現している企業は29%にとどまっているという。今後、これらの共通化を検討している企業は36%に上っていると説明。今後3年のシステム投資では、ECサイト構築のほかに店舗とECサイトのデータを統合したいというニーズが高いことも浮き彫りになっている。

 「O2Oでは新客獲得成果が上がっていることが分かり、この成果をもとに次のステップとしてオムニチャネル化に向けて、データ統合を始めようとしている企業が多いのが現状。オムニチャネルは、リピーター客の獲得や利益率の高い顧客の獲得、そして、既存顧客の囲い込みに適しており、O2Oが短期的な売上増に効果があるのに対して、長期的な売上増、利益増に貢献すると見られている」とする。

 そして、「小売業や外食業では、たくさんの顧客を集める時代から、顧客の定着化を図り、自社に適した顧客を選ぶ時代へと進むことになる。そこにオムニチャネルが生かされることになる。その先には、オムニチャネルの実績を生かして、より精度が高い新客獲得方法がO2Oで展開され、新たなO2Oでさらに高い利益率をもたらす時代が訪れることになるだろう」と武下氏は中期的な見通しを示してみせた。

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