富士通や九大など、社会制度設計などで共同研究--数理技術を活用

大河原克行

2014-09-16 12:51

 富士通と富士通研究所、九州大学は9月12日、“社会システムデザイン”に関する共同研究部門を開設すると発表した。

 九州大学のマス・フォア・インダストリ研究所内に「富士通ソーシャル数理共同研究部門」を設置。公平で受け入れられやすい社会制度や施策を実現するための数理技術に関する共同研究を開始する。2014年9月~2017年8月の3年間を研究期間としている。

 マス・フォア・インダストリ研究所は、アジアで初めて設立された産業技術に関する数理研究の拠点。文部科学大臣から共同利用と共同研究拠点である「産業数学の先進的・基礎的共同研究拠点」に認定されている。


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共同研究のアプローチと課題例 共同研究のアプローチと課題例
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 富士通と富士通研究所は、ビッグデータなどのデータ利活用技術を中心にさまざまな課題解決のための技法を融合して、同社が掲げる“ヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティ”の実現を目指している。4月には、データを活用して、企業や行政、個人、センサなどの異業種情報を連携、利活用した社会サービスの実現を研究するソーシャルイノベーション研究所を富士通研究所内に設置。それぞれの技術的強みを生かして、制度設計者、サービス提供者、利用者などが公平で納得性の高い社会システムを設計するための数理研究を行うのが、富士通ソーシャル数理共同研究部門の役割になる。

 公共施設や流通システムなどでさまざまな制度や施策を設計する際に、人間の行動や心理を適切な形で組み込むことができないため、予想通りに利用者数に達しなかったり、想定外の行動で使い勝手が悪いといった課題が発生している。富士通ソーシャル数理共同研究部門では、人間の行動や心理を明らかにする社会科学的研究とデータを利用した数理技術を融合した研究で、こうした課題の解決を目指すという。

廣野充俊氏
富士通 執行役員 グローバルマーケティング部門 イノベーションビジネス本部長 廣野充俊氏

 富士通 執行役員 グローバルマーケティング部門 イノベーションビジネス本部長の廣野充俊氏は、「富士通は、データ分析、セキュリティ、防災などの分野で九州大学と連携してきた経緯がある。今回は、アジアでもナンバーワンといえる九州大学の産業技術に関わる数理研究で初の産学連携での共同研究を行う。ビッグデータでは、人間の心理、行動のデータは収集できにくい、あるいは活用されにくいという現状がある。そこに着目し、消費行動や渋滞といった動きの中に人間の心理や行動が影響していると考えて研究活動を行うことになる。富士通が目指すヒューマンセントリック・インテリジェントソサエティの実現の貢献できると期待している」と説明した。

 社会システムモデリング技術、社会制度設計技術、社会制度評価技術といった3つの研究内容から、人間の行動や心理をモデル化。分析、最適化、制御といったデータ利活用技術と経済学や心理学などの社会科学研究を融合し、社会的な制度や施策の設計技法の確立、社会実践を行っていく。

 具体的な事例としては、空港やイベント会場などでの警備の際に限られた警備人員での効率的な配置や荷物検査の実施、麻薬犬の導入などの警備プランの立案、警備実施による人の流れや混雑度への影響を評価して混雑緩和に対して有効な施策を検討するといった用途への応用を想定している。

村上亮氏
富士通研究所 常務取締役 村上亮(まこと)氏

 「2020年の東京五輪を想定したものにもなる。そのほか、電力自由化後のデマンドレスポンスなどを含む効率的な電力市場の設計、農業生産者や消費者の多様なニーズを考慮した流通メカニズム設計による安定的供給サービスの実現など都市や農業、エネルギー、教育、流通といった分野での応用が期待できる。具体的な課題は年内には決定していくことになる。成果は横展開し、富士通が提供するビッグデータリソューションの中に反映していきたい」(富士通研究所 常務取締役 村上亮氏)

 富士通ソーシャル数理共同研究部門は、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所から専任教員1人と協力教員2人が参加。富士通から1人、富士通研究所からは2人の研究員が参加して、共同で研究活動を行う体制とする。研究に必要とするスーパーコンピュータのクラウド利用環境の提供などは富士通が行う。九州大学が関連する組織、国内外の研究機関とも人材交流を行い、社会的課題に対する実践的解決策の研究開発や人材育成を図るという。

 富士通研究所の村上氏は、「2008年から富士通研究所の研究員が九州大学数理学府や産業技術数理研究センターを兼務する形で参画。2011年のマス・フォア・インダストリ研究所の設立にも貢献している。これまでは、社会現象を対象にしたときのデータ分析に課題があったが、今回の共同研究では、社会システムモデリング技術をもとに社会制度を設計し、実際に動かして評価するところまでを行う。富士通が参画することで、社会実践を推進する場が提供できるというメリットがある」などとした。

若山正人氏
九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所長 若山正人氏

 マス・フォア・インダストリ研究所所長の若山正人氏は、「これまでにもさまざまな企業と共同研究を行ってきたが、富士通の共同研究は最もチャレンジングな研究課題となる。伝統的な産業数字も大切だが、経済や心理、法学といったことを活用した社会での課題の解決といった新たな数学の研究領域の誕生にも期待している。なぜ人々の関心がそちらに向くのか、なぜ急にモノが売れるのかといった理由がわかり、事前に予測できるようなことを実現するには、新たな数学の使い方も含まれるだろう。それを富士通とともにやっていきたい」と述べた。

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