Adobe Systemsは米国時間6月11日、「Adobe Integrated Runtime」(AIR)のベータ版をリリースした。これまで「Apollo」という開発コード名で呼ばれていたソフトウェアで、ウェブベースのアプリケーションを、デスクトップアプリケーションのように動作させるものだ。AIRはダウンロードして無料で利用できる。
正式名称がAIRに決定した待望の同ソフトウェアは、ウェブとデスクトップをつなぐハイブリッドアプリケーションの新たな形となる。
AdobeがAIRと同時にリリースした、AIRの無償ソフトウェア開発者キット「AIR Software Developer's Kit(SDK)」は、そうしたアプリケーションの開発促進を目指すものだ。
また、同社は同じく11日、「Flex 3」のパブリックベータ版リリースも発表した。Flex 3のソフトウェア開発者キット「Flex 3 SDK」は、「Flash」あるいは「HTML」ベースのウェブアプリケーションに加えて、AIRアプリケーションの記述に利用できる。
AIRは、市場に次々と登場し増加しているブラウザプラグインの1つとなる。同様のプラグインには、Microsoftの「Silverlight」やGoogleの「Google Gears」などがある。
AIRを用いたアプリケーション開発
上述の3製品は、それぞれ目的が少しずつ異なる。Silverlightは、AdobeのFlash同様、動画などのメディアを統合したインタラクティブなウェブアプリケーションを動作させることを目的としている。初の製品版が2007年夏にリリースされる予定だ。
2007年内にリリースを予定しているGoogle Gearsは、ローカル環境にデータベースなどの機能を提供し、ウェブアプリケーションをオフラインで利用できるようにする。
AdobeのAIRも、ウェブアプリケーションをオフラインで利用できるようにするものだが、AIRアプリケーションは、ブラウザなしで動作できる。
Adobeのチーフソフトウェアアーキテクトで、プラットフォームグループのシニアバイスプレジデントを務めるKevin Lynch氏は、AIRの重要な利点は、ソフトウェア開発者が既存のツールや技術を利用してデスクトップアプリケーションを開発できることだ、と述べた。たとえば、Adobeが同社の動画再生アプリケーション「Adobe Media Player」で行っているような、オンラインサービスに接続するデスクトップアプリケーションの開発に、AIRが利用されるようになるという。
「開発者にはこれで、アプリケーションに関して多くの選択肢ができた。デスクトップアプリケーションを構築する目的は、ローカルのファイルシステムへのアクセスかもしれないし、ユーザーに注意を促すための画面表示・・・あるいはデスクトップ上にアイコンを作ることかもしれない」(Lynch氏)
たとえば、オンライン音楽サービスのFinetuneは、ブラウザに楽曲をストリーム配信しているが、AIR版ならローカルに楽曲を保存できる。
オンデマンドアプリケーションのsalesforce.comはAdobeのAIRについて、同社のアプリケーションをブラウザの外に持ち出す方法と見ていると話す。
salesforce.comの創設者でテクノロジ部門担当エグゼクティブバイスプレジデントのParker Harris氏は、AIRの発表に寄せて、「AdobeのAIRを利用することで、オンデマンドのビジネスアプリケーションをさらに拡張して、デスクトップ環境での継続的な機能性と、AIRが実現する双方向性を備えたものにできる」と語った。
Flexのオープンソース化
AdobeとGoogleは、Google Gearsで協力している。Lynch氏によると、両社はともに、ローカルのデータ保存にオープンソースのデータベース「SQLite」を使用し、両社のエンジニアが協力して、データ格納のための共通のアプリケーションプログラミングインターフェース(API)開発に取り組んでいるという。
Adobeは当初、AIRでデータベースを提供する考えはなかった。しかし、アルファ版リリースの後、開発者から最も要望の多かったのがデータベースの機能だった、とLynch氏は説明する。
FlexはAIRでうまく機能するよう更新されているが、ウェブ開発者は「Dojo」などの「Ajax」フレームワークをはじめ、どんなウェブ開発ツールキットを利用してもAIRアプリケーションを作成できる。
Flex 3のベータ版リリースは、同社の中核開発ツールをオープンソース化する動きの第一歩だ。
Adobeは11日の段階で、まだFlex 3のコードをオープンソース化していないが、2007年後半に同製品が正式リリースを迎える頃には、同製品のコードがオープンソースライセンスのもとで、無料で利用できるようになる見込みだ。また、同社はオープンソースプロジェクトにおける管理モデルも発表する予定だと、Lynch氏は述べた。
それまで、Adobeの社外の人々は定期的に同製品の「ビルド」をチェックできるほか、バグのデータベースを閲覧することができる。
同社はオープンソースの開発モデルを採用することで、開発者からより多くのフィードバックを引き出し、製品向上に役立てたい考えだ。
この記事は海外CNET Networks発のニュースを編集部が日本向けに編集したものです。海外CNET Networksの記事へ