トロント大学の研究者が、簡単かつ安価に暗闇の中でものを見られるようにする分子を開発した。
このナノ分子は、Ted Sargent教授が指揮するプロジェクトで開発されたもので、簡単にいうと人間の目には見えない波長の長い赤外線を検知できる。ここで検出されたエネルギーは、さまざまな用途に応用することができる。
現在の暗視双眼鏡や暗視カメラは、像の生成に赤外線のスペクトラムを使っているが、これらの機器に内蔵される半導体は製造工程が複雑でコストも高い。
Sargent教授の開発したこの分子をコーティング剤や布、プラスチックに混ぜ合わせれば、はるかに安価な製品を開発できると考えられる。特別な処理を施したレンズを装着するカメラなら、赤外線信号を使って暗闇でも撮影ができるようになる。また、赤外線に反応するペンキを塗った壁ができれば、部屋に侵入してきた人間や動物が発する体温を手がかりに、その侵入を検知できる。
「この技術を使えば、(太陽)光の代わりに温度や熱を使って、ものを見ることが可能になる。この技術を軍事目的に利用したものはすでに存在するが、ただし普通の人間が裏庭で使うにはあまりに値段が高すぎる」(Sargent)
この技術は、今後3〜5年以内に製品化される可能性があると、Sargentは付け加えた。
この分子の予想外のメリットの1つは、太陽から赤外線エネルギーをも取り込んで、それを電力に変換できることだ。この性質を活かせば、取り扱いの容易な太陽電池の性能をアップさせることが可能になる。
Konarka Technologiesなど数多くの企業では、取り扱いが難しく、魅力に欠ける結晶型の太陽電池パネルの代わりに、透明なビニールシートを使おうとしている。こうしたシートなら、屋根やビルの壁面に使っても目立つことがない。
残念ながら、いまのところ、可視光からエネルギーを集めるポリマー製の太陽電池はあまり効率的ではない。現在実験段階にあるポリマーでは、照射される太陽光のうち、わずか3〜12%を電気に変換できるだけだ。
赤外線感知可能な分子を組み込むことによって、ポリマー製太陽電池は太陽から受ける全エネルギーのうち最大で30%を取り込むことが可能になると、スタンフォード大学教授のPeter Peumansは述べている。同氏は、トロント大学での実験結果の一部を審査している。
暗闇で物を見たり、太陽光からエネルギーを得ることに共通する秘密の鍵は、カーボン(炭素)にある。
トロント大学で作られた赤外線を感知する微粒子は、およそ8つの炭素原子が1つの鎖状につながったもので成り立っている。炭素は(カーボン)ナノチューブを構成する元素であり、ナノチューブは頑丈で電導性を持っていることから、やがては飛行機の翼や半導体などで用いられることが考えられる。
これらの素材の想定される用途は幅広い。一部の企業ではダイヤモンドやナノチューブを使ったTVパネルの実験に着手しているところであり、また研究者のなかには、微細な炭素分子が薬を特定の臓器まで運ぶことに役立つと考えている者もいる。
この記事は海外CNET Networks発のニュースをCNET Japanが日本向けに編集したものです。