2005年、Hewlett-Packard(HP)はデータセンターを86カ所に構え、約6000のアプリケーションを走らせていた。それを同社は、6カ所のデータセンターに集約し、アプリケーションの数を約1600にまで抑える計画を立てた。「この計画を立てた時には、成功するか失敗するかはわからなかった。ギャンブルのような賭けだったが、失敗よりも怖かったのは、そのまま変革せずにいることだった」と、HP テクノロジソリューショングループのエグゼクティブバイスプレジデント Ann Livermore氏は語った。
Livermore氏が「Business Technology and Transformation」と題した講演を行ったのは、米国ラスベガスにて開催されたSAS Institute主催のイベント「The Premier Business Leadership Series」にて。このイベントのテーマは「Innovate(革新)・Optimize(最適化)・Transform(変革)」となっており、まさにこの3つを実践するHPの事例をLivermore氏は紹介したわけだ。
HPが2005年に抱えていた課題は、膨大な数のデータセンターとアプリケーションが原因で、ITコストのほとんどが運用管理へと消えていったことだ。イノベーションのために使われるコストはほんの35%にもかかわらず、IT担当者の数は営業担当者の数より多いという状況だった。
2009年にこの計画が完了すると、HPでは70%のITコストをイノベーションに使えるようになると見ている。ITコストそのものも、「2005年には売上の4%を占めていたのが、2%まで抑えられる」とLivermore氏。それは、2005年当時より40%も少ない数のサーバで、当時の250%の演算力を発揮できるようになるためだ。「電力コストが60%削減できることもあり、年間のコスト削減額は約100億ドルにもなる。削減できたコストはイノベーションに使えるほか、顧客ニーズを直接聞き取る営業担当者も増やすことができる」とLivermore氏は説明する。
Livermore氏は、各業界で企業が売上の何%をITコストとして費やしているか調査した結果を引き合いに出し、「どの業界においても、トップの企業がITコストに費やしている額の比率は業界平均より低い」と述べる。つまり、各業界のトップ企業は、ITにそれほどコストをかけていないのだ。ちなみに、テクノロジ業界におけるITコストの売上比率の平均値は、変革前のHPと同じ4%。業界トップ企業のITコストの比率は、HPが変革後に目指す2%となっている。
HPがこの変革を計画するに至ったのは、多くの企業が抱える3つの課題が元となっている。それは、情報量が膨大になりつつあること、経営者がテクノロジにより多くを求めるようになったこと、そしてITインフラが老朽化していることだ。
Livermore氏は、こうした課題が解決できれば企業の競争力向上にもつながると主張する。例えば、増加の一途をたどっているデータ量の中で、メールの重複部分をなくすだけでも必要な情報をより迅速に探し出すことができる。メールの重複部分は、全体のメールの61%にものぼるとされているためだ。また、ITインフラの老朽化について危機感を抱いている企業は多く、「51%のCIOは早急にデータセンターの変革が必要だと考えている」とLivermore氏。データセンターの変革は簡単ではないが、次世代データセンターが実現できれば、「自動化や仮想化などの技術の恩恵が受けられるのはもちろん、電力効率の向上にもつながる」とLivermore氏は言う。
こうした理由から変革に踏み切ったHPだが、今回の計画についてLivermore氏は、「ITの変革ではなく、ビジネスの変革だった」と語る。実際、この計画において中心的役割を果たしていたのは、IT部門ではなくビジネス部門だった。「ビジネス部門が中心となって変革を進める」--これは、Livermore氏が計画を実行する中で学んだことのひとつだ。
テクノロジ企業であるHPが、IT部門よりもビジネス部門を中心としてITの最適化を進めるのは不思議なようにも感じるが、Livermore氏は「ビジネス戦略はテクノロジによって加速することが可能だ」と語る。ビジネスかITかという問題ではなく、IT環境を変革させることでよりよいビジネスができるということなのだ。そう考えると、Livermore氏が言うように変革しないことのリスクはギャンブルで負けるリスクよりも高いのかもしれない。