SAPは5月18日から3日間、独フランクフルトと米オーランドで年次カンファレンス「SAPPHIRE Now 2010」を開催した。会期中に開かれたパネルディスカッションでは、ユーザー企業とSAPの共同CEO、Jim Hagemann Snabe氏がステージに上がり、ビジネスソフトウェアを企業戦略にどう活用するかをテーマに意見交換した。
参加したのは、英バーミンガム市でITを統括するGlyn Evans氏、南アフリカのガラス会社Consol GlassのITディレクターであるJohan du Plessis氏、ドイツ銀行でCIOを務めるWolfgang Gaertner氏、独Zipper MediaのCAO兼COOのDaniel Zippel氏、それにSAPのSnabe氏の5人。
明日のレガシーはいらない--ドイツ銀行CIO
世界有数の金融機関であるドイツ銀行は現在、レガシー環境から標準ソフトウェアを利用した新システムへ移行するという大規模なプロジェクトを進めている。同行は、2008年に金融機関を襲った金融危機の中でも、業績の落ち込みを最小限に抑えたことで話題にもなった。今後は、回復期を見込んだ成長に向けての投資を開始し、2011年には利益100億ユーロの達成を目標にしているという。
Gaertner氏はこの目標を「野心的」と表現しつつ、「IT無しでは達成できない」と断言する。そこで思い切ってレガシー環境にメスを入れることにした。金融業界、特に銀行では30年にわたってレガシーを使い続けることも少なくない。そんな環境から標準ソフトウェアを活用した新システムに移行することで、古い開発手法を変えていきたい考えだ。また、面倒で時間がかかる要件定義フェイズの削減を徹底しているという。「明日のレガシーはいらない。まったく異なる、新しいシステムを作りたい」と、Gaertner氏は述べている。
ポイントは、ITプロジェクトではなく、ビジネスプロジェクトとして展開している点だ。ドイツ銀行の従業員は8万人。システム実装を、社風を変える“トリガー”として活用している。これにより、ドイツ銀行自身も生まれ変わることができる、と期待している。