11月に行われた北東アジアOSS推進フォーラムでは、参加団体による報告が行われた。今回は、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)橋本明彦氏による、自治体へのオープンソースソフトウェア(OSS)実証実験のレポートを紹介する。
橋本氏は、IPAが推進している自治体レベルでのOSSデスクトップの導入について、2005年度に実施された4つの自治体での導入事例について解説した。その4自治体とは、町役場全体へOSSデスクトップを導入し、運用効率と導入コストについて検証した栃木県二宮町、水道局でOSSを使用したマルチメディアコミュニケーションツールの導入と運用検証を行った北海道札幌市、ネットワークブートによるKNOPPIXを市役所に導入した大分県津久見市、シンクライアント方式でのOpenSolarisを導入した沖縄県浦添市だ。
OSSデスクトップの導入
二宮町では従来の行政事務のコンピュータ化にあたって、民間業者の計算センターを使用しており、その結果、役場の中には計算センターへの端末と、日々の業務を行うPCの両方が併用されるという状況だった。
今回の事業では、そのPCをすべてOSSデスクトップへ切り替えるという、大規模な導入が行われ、結果として町長から末端の関係者まで全員(約130名)がOSSデスクトップを利用し、OpenOfficeなどのアプリケーションが用いられるようになった。
さらにIPAでは、Officeツールの習熟度について約20名のサンプリングによる追跡調査を行ったところ、導入前と導入後で作業効率の低下は確認することができなかった。この結果についてIPAは「ITに特段親しんでいるわけでない人でも、OSSは使えるという結果がでた」としている。
また、導入コストの検証では、「ライセンス料がかからない」というOSSのメリットと、「運用に費用がかかる」というデメリットをあらかじめふまえ上で説明が行われた。
この点については、運用にともなう付加的な費用を含めたとしても、導入時の総費用は従来環境を下回る結果が出た。この事例について橋本氏は、「1事例に過ぎないとはいえ、実際の金額で集計できたのは大きな意義がある」と語った。
二宮町の場合、十分に準備した上での導入のため、どこでもすぐ導入できるわけではないと断りつつも、今回の取り組みを通じて、OSSが自治体業務に耐えうるということが実証されたのは、大きな成果だとしている。
OSSマルチメディアコミュニケーションツールの採用
札幌市全体の水道事業を管理する札幌市水道局は、市内の水道施設の管理はもちろん、山奥のダムや貯水池も管理している。しかし、厳冬期の北海道では、雪の影響により、それら施設への移動の手間が大きな負担になっていた。
そこで、今回の導入では、LinuxでIP-PBXサーバをはしらせ、Linuxによるマルチメディアコミュニケーションが行るシステムが導入された。また、それに伴う運用の検証が行われた。
導入後、各拠点間でテレビ会議ができるようになった。運用状況や使用している職員の反応を調査した結果、OSSを使用したテレビ会議でも、従来の打ち合わせの代わりになるということが実証された。今回の運用は地元IT企業がサポートを担当したが、そちらも十分機能したとのことだ。