新型インフルエンザとグローバリゼーションの功罪

飯田哲夫(電通国際情報サービス)

2009-05-11 20:00

 米国出張から戻ってきたのが4月25日。同日夕刻のメキシコ便到着の頃から検疫が厳しくなり始め、WHOが警戒レベルをフェーズ4からフェーズ5に上げるに及んで、10日間の自宅待機を余儀なくされた。幸いにもゴールデンウィークに突入したために業務には大きな影響もなく、無事10日間の待機期間を発症なく乗り切ることができた。しかし、人類に免疫のない新型インフルエンザが日々世界へ広まる様は、グローバリゼーションの功罪を強く感じさせる。

 新型インフルエンザがこれだけ広まるのは、航空機による移動手段が整備されていることに加え、政治、経済、テクノロジーなどさまざまな領域における相互連携と標準化が図られているが故に、その目的がビジネスであれ観光であれ、実際に移動することの対価に見合うだけの価値が得られるからである。逆に、それだけの移動が発生するが故に、病原菌も急速に世界へ拡散することとなる。

グローバリゼーションと標準化

 ナヤン・チャンダが『グローバリゼーション 人類5万年のドラマ』において、ブリタニカのグローバリゼーションの定義を引用している。それによれば、「グローバリゼーション」とは「日常生活の見聞や体験が商品やアイディアの拡散によって広まり、あるいは深まって、それが世界中の文化的表現の標準化を助長していく、そういうプロセスである」ということになる。

 この定義では文化的側面に焦点を当てているが、ビジネス的にまで対象領域を広げれば、それは契約のスキームであったり、ビジネスで使う言葉であったり、税務に関する約束事であったり、商法の裏付けであったり、電子商取引のプラットフォームであったり、そういうビジネスを取り巻くあらゆる要素の「標準化」が実現されていく「プロセス」と定義できるだろう。

 しかしながら、「標準化」を押し進めるグローバリゼーションは、病原菌のように破壊的なものも急速な伝播を可能とするし、現在の金融収縮のようなネガティブな経済インパクトを世界へ波及させる。また、相互の影響と依存度が強まるために、効率性の対価として、各文化圏、経済圏、国、企業、個人の独自性が徐々に薄められ、イノベーションが阻害される可能性がある。

グローバリゼーションの推進者としてのIT

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