NECは、1990年代からシンクライアント市場に参入していた。しかしそのブームは長くは続かなかった。状況は他社と同じだが、その間にNECは新しいシンクライアントの形を考えていた。コスト削減とマルチメディアをターゲットにした仮想PC型シンクライアントだ。そこには、クライアント統合を実現し、プラットフォーム最適化を実現するというNEC独自の戦略が込められているようだ。
個人情報保護法までの動き
NECでは現在、「VirtualPCCenter」のブランドの元に、3つのタイプのシンクライアントシステムを提供している。「仮想PC型」「ネットブート型」「画面転送型」の3つである。
このうち、ビジネスPCというボリュームゾーンをターゲットに、NECが最も力を入れているのが仮想PC型のソリューションだ。
このソリューションにおける新製品が登場したのは2006年11月。しかし、ここに至るまでには紆余曲折があった。マーケティング本部プラットフォームソリューション企画グループマネージャーの平智徳氏はこう振り返る。
「7〜8年前、国内でもシンクライアントが注目されたことがあります。しかし当時は、クライアントサイドの業務アプリケーションを集中管理したいという、TCO削減を目的としたものでした。サーバやネットワークのパフォーマンスの問題もあり、あまり市場は広がらなかったのはご存じの通りです」
NECでも、Citrix Presentation Serverによる画面転送型シンクライアントや、サン・マイクロシステムズとのアライアンスによる「Sun Ray」のOEM提供などを行っていた。しかし1990年代のシンクライアントブームは、平氏が指摘するように一度沈静化する。
だがその間、NECは決してシンクライアントをあきらめたわけではなかった。いずれ、サーバ・ベースド・コンピューティングの時代がやってくると確信し、それに合わせてクライアント統合を実現するシンクライアントが必要になると考えていた。
そこでNECが独自に開発を進めていたのが、シンクライアント端末に必要な機能を納める専用LSIだ。現在のPCから、ハードディスクを取り払っただけでは、サイズはそれほど小さくならない。また、コスト削減や端末サイドの業務効率化にもつながらない。NECがLSIの設計から、シンクライアントに取り組もうと考えたのは、そうした問題に対する抜本的な解答を用意するためだった。
2002年前後より、NEC社内で、そのLSI設計がスタートする。インテルアーキテクチャのシンクライアントでも実現できる機能は基本として持ちながら、そこに動画やVoIPに対応するマルチメディアの機能を組み込むという方針でチップの開発を進めた。その取り組みは、2005年の個人情報保護法で加速する。
シンクライアントを改めて体系化
個人情報保護法の施行は2005年4月。これと前後して、企業からの情報漏えい事件が連日マスコミを賑わせるようになる。
そこでNECは「クライアント統合ソリューション」という形で、それまでのシンクライアント群を体系化した。発表は2005年4月25日のことだ。