クラウドサービスの登場によって、企業はITリソースの調達においてリアルタイム性を獲得した。前回(日本でのクラウド普及のカギを握る意外な「アキレス腱」)は、日本の企業はクラウドサービスをどのように見ているのかについて、アナリストの意見を聞いた。今回は、企業にとってのプライベートクラウドの価値について考えてみよう。
3000人の研究者が使ったプライベートクラウド
さて、前回の記事でプライベートクラウドでは「規模の経済が働かない」としたが、IBMほどの規模の大きな組織になると、組織内クラウドであっても「規模の経済」の恩恵が受けられる。これはIBMを取材して分かったことだ。IBMは、パブリッククラウドからプライベートクラウド、コミュニティクラウド、さらにパブリックとプライベートを組み合わせた「ハイブリッドクラウド」まで、あらゆるクラウドサービスを提供している。まるでクラウドサービスの百貨店だ。
IBMでは、すべての社員にプライベートクラウドを使える環境を提供している。そのサービスのうちのひとつが「IBM Research Compute Cloud」、通称「RC2」である。
「名称はAmazonのEC2をもじったものらしい」と話すのは、日本IBMのクラウド・コンピューティング事業、事業企画部長である三崎文敬氏だ。
「Research」の名が示すとおり、RC2はもともと世界8カ所にある基礎研究所で働く3000人の研究員を対象に、必要なITリソースをオンデマンドでスピーディに提供するために導入されたものだ。RC2を導入する以前は、IT部門が研究所の要求を受けて、必要となるITリソースを調達し、導入設定するのに数週間かかっていたそうだ。
現在ではIBMの全社員がRC2を使える状態にある。「プライベートクラウドとは何か」との問いに、三崎氏は「使いたいときにすぐに使えるパブリッククラウドと同じ利便性を社内(プライベート)に持つこと」と答える。
Amazon EC2がいくら便利だとしても、基礎研究所で行っている研究をパブリッククラウド上で行うことはできない。そのため、まるでAmazon EC2を使うかのように、社内のITリソースを使える仕組みである、プライベートクラウドが必要ということだ。