世界の投資家たちの大量のマネーが、TwitterやGoogle Waveなどに代表される「リアルタイムウェブ」の分野に注ぎ込まれている。ITとビジネスの関係は、データの世界と実社会との時間差を極小化する方向に進化を続けてきた。株価も、為替も、天気予報も、物流も、経営も、すべてがITを介した「リアルタイム」を目指している。
この特集では「リアルタイムが生みだす価値」と題して、ITの下支えによって生みだされる様々な「リアルタイムの価値」について考えていきたい。最初に注目するリアルタイムは、クラウドコンピューティングによってリアルタイム性を獲得したITリソースの価値について考えてみる。
クラウドは企業に響いたのか?
IT業界にとって、2009年は「クラウド」という表現をコンピュータシステムにかかわる多くの人に浸透させることができた年だったと言える。クラウドについて「ユーティリティコンピューティングと同じ概念だろう」などと高をくくっていたら、知らぬ間に数多くの新しい提案がなされ、気がつくとおいてけぼり。そんな気になってしまうほどに、「クラウド」周辺は賑やかだった印象がある。
ただ、2009年のクラウドは、IT関係者、特にITを生業とする人々にとって衝撃的であったとしても、企業のビジネスや経営に対して同等の衝撃を与えたとは言い難い。昨年来の「クラウドコンピューティングフィーバー」は、IT関係者以外の人々にはどのように見えていたのだろうか。
「SaaSのことをクラウドと書いているメディアがあるため、ソフトウェアを動かしている環境のことだと誤認している経営者も少なくない」
そう指摘するのは、アイ・ティ・アール(ITR)のシニア・アナリストで、企業に対してクラウドコンピューティングに関するアドバイスを行っている甲元宏明氏だ。
「SaaS=クラウド」という勘違いには、Salesforce.comを紹介したテレビ番組などの影響もあるに違いない。
甲元氏によると、2009年に入ってクラウドの導入をまじめに考える企業が、ずいぶん増えたそうだ。クラウドでITコストを削減しコアビジネスに集中したい、と考える経営者と話す機会が多くなったという。
「ただ、クラウドを採用すれば開発も運用もしなくていい、と思い込んでいる人もいた。PaaSは開発するし、IaaSは運用しなければならないことを、まず説明しなければならなかった」(甲元氏)