「Google Chrome OS」(Google OS)が話題となっている。これまでGoogleはMicrosoftと対比されてきただけに、Google OSについてもWindowsとの対比で語られることが多い。しかし、Google OSの参入は、従来型のOS間競争の構図(例えばWindows vs Mac)ではとらえることができない。その理由の一つは、Google OSがオープンである点、もう一つはGoogle OSがウェブアプリケーションを前提としている点である。もう少し詳しく見てみよう。
OSを取り巻く従来の構図
本来、OSとその上で動くアプリケーションは補完関係にある。アプリケーションはターゲットとなるOSを前提として開発されるため、特定のOSのユーザーが多ければ多いほど、それに対応したアプリケーションはより大きな市場をターゲットとすることができる。
そして、アプリケーションが増えれば増えるほど、それを稼動させることのできるOSの価値も高まり、ますます売り上げが伸びる。そのため、各社とも自社のOSで稼動するアプリケーションを増加させるために、ソフトウェアベンダーに対して、当該OSに対応するアプリケーションの開発を促すということも発生する。
要するに、OSのビジネスとは、囲い込みのビジネスである。OSがあり、そこで動くアプリケーションがあり、それを使うユーザーがいる。アプリケーションはOS間で互換性がないため、ユーザーは特定のOSにロックインされてしまい、定期的にOSのアップグレードを繰り返すこととなる。
このビジネスでは、ネットワーク効果が働く結果、特定のOSのシェアが高まっていくケースが多く、無数のOSが乱立するということは生じにくい。PCであれば、Windowsが圧倒的なシェアを獲得した。Unixでも、HP-UX、Solaris、AIXなど限られたOSがしのぎを削るという構図となる。
新しい構図への挑戦
この構図へ最初にチャレンジしたのは、Sun Microsystemsではなかったかと思う。Solarisをオープンソースとすることで、ロックインから収入を得るというモデルから脱却しようとした。もちろんSolarisを使えばSolarisにロックインされるのだが、OSというソフトウェアそのものがフリーであることから、ロックインに掛かるコストが抑えられる。
その分ユーザーベースを拡大して、サポートなどを収益源としていこうというモデルだ。しかし、この戦略は大きな効果を上げる前にOracleによる買収で終焉を迎えることとなる。
そしてGoogle OSである。Google OSは、Sunと同様にオープンソースである。最大の違いは、もう一つのポイントであるウェブアプリケーションを対象としている点だ。
Google OSはある意味、ウェブアプリケーションを稼動させる仕組みでしかないので、Google OSは囲い込みを志向するものではない。Solarisはオープンソースであっても、そこで稼動するアプリケーションは他社OSでそのまま動くことは保障されないので、少なくてもユーザーロックインを志向したものであった。
つまり、Google OSは、顧客を囲い込まないOSであり、ロックインされた顧客からアップグレードフィーを取り続けて儲けるモデルではない。むしろ、「アプリケーション」の概念を「ウェブアプリケーション」と同化させ、「インストール」という行為を消し去ろうとするものである。その結果、主戦場はOSレイヤから、ウェブアプリケーションのプラットフォーム、つまりいわゆるクラウドレイヤへと移行することになる。つまり、今Googleが最も競争力を持つ領域である。
GoogleはGoogle OSを投入することで、従来のようなOSによる囲い込み合戦を仕掛けているわけではなく、アプリケーションの概念をシフトすることで、競争のレイヤをOSからクラウドへと移行させることを狙っている。この点において、Google OSは新たなOSではなく、新たな世界観、つまりクラウドベースの競争環境の提示ととらえるべきだろう。
筆者紹介
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。
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