ガートナーに聞く“クラウド戦略で大手ベンダーが抱えるジレンマ”

藤本京子(編集部)

2010-10-28 18:33

 変化の激しいIT業界において、Gartnerが毎年発表する「戦略的テクノロジ領域トップ10」は毎回大きく順位が入れ替わるのが常だ。その中で同社が2010年、2011年と連続してトップに選んだテクノロジがある。それはクラウドコンピューティングだ。

 クラウドコンピューティングと一口に言っても、SaaS、PaaS、IaaSと分野はさまざまで、パブリッククラウドからプライベートクラウドまで領域も幅広い。クラウドというキーワードを軸に製品やサービスを展開するベンダーが増えるにつれ、ユーザーの関心もますます高まっている。このクラウドコンピューティング市場で今、何が起こっているのか。また、今後この市場でどのような変化が起こり、その時クラウド分野で戦うベンダーはどう対応すべきなのか。米Gartner ウェブ&クラウドコンピューティング シニアリサーチアナリストのEric Knipp氏に聞いた。

クラウド市場の変化と各ベンダーの戦略

Knipp氏 Gartner ウェブ&クラウドコンピューティング シニアリサーチアナリスト Eric Knipp氏

 Gartnerが2年連続で戦略的テクノロジ領域だとするクラウドコンピューティングだが、2010年と2011年の違いについてKnipp氏は「2011年はプライベートクラウドへの関心が高くなるだろう」と説明する。パブリッククラウドも引き続き注目される分野ではあるが、プライベートクラウドを提供するベンダーも増えつつあり、「今後数年は、多くの欧米企業がプライベートクラウド領域で収益が増加する」としている。その理由としてKnipp氏は、企業にとってクリティカルなデータやプロセスをパブリッククラウドに預けることへの懸念が大きいことを挙げた。

 またKnipp氏は、この市場で起こっていることのひとつに、クラウドコンピューティングを軸に戦略を変えた企業と、クラウドコンピューティングに取り組んでいるように見えて実は戦略まで変えたわけではない企業が存在することを指摘した。

 クラウドの普及で戦略を変更した企業として代表的なのはMicrosoftだ。同社はGoogleやSalesforce.comといったクラウド企業の出現によって戦略の変更を迫られたと言っていいだろう。パッケージソフトウェアベンダーだったMicrosoftは、いまやさまざまな分野でクラウドに取り組もうとしている。Knipp氏は、「Microsoftのクラウドへのステップは非常に大きい。彼らはイノベーションのジレンマを抱えていた企業なのだ。それが、10月19日には『Business Productivity Online Suite』を刷新したクラウド型オフィス製品『Office 365』を発表するなど、積極的にクラウドに取り組もうとしている」と評価する。

 同時にKnipp氏は、Microsoftの既存ビジネスの利益率は30%程度だが、純粋なクラウドプロバイダの利益率は10%以下となるため、「どうしてもクラウドは既存ビジネスの売上を奪うことになる。Microsoftがこれまでのように利益を生み続けるためには、クラウドでかなりのユーザー数を集める必要がある」と指摘する。「Microsoftにとって、クラウドにシフトするという戦略は苦しい選択だったに違いない。しかし、すでにGoogleやSalesforce.comなどが大きく成長しており、プレッシャーは強かった。だからこそ彼らは戦略を変える必要があったのだ」(Knipp氏)

戦略を変更しないOracle、IBM、SAP

 一方、Knipp氏によると、Oracle、IBM、SAPもクラウドコンピューティングというキーワードを基に製品やサービスを展開しているが、これらのベンダーは「戦略や技術を変更したのではなく、マーケティングにクラウドという言葉を活用しているに過ぎない」と指摘する。

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