米国の製造業では、人材不足が大きな問題になっている。経済的な混乱の影響を受けやすく、オフショア化の対象にもなりやすい製造業は、若い世代の従業員を十分に集められずにいる。
DeloitteとManufacturing Instituteの調査によれば、この業界では今後10年間で1000万人もの新規雇用者が必要になる見込みであるにも関わらず、その求人の多くが満たされないままになる可能性が高いという。皮肉なことに、2019年に米国の製造業の強さに歯止めをかけるもっとも大きな要素の1つは、低賃金の外国人労働者ではなく、資格を持たない米国人労働者かもしれない。
拡張現実(AR)技術は、まだ企業に食い込む足がかりを作ろうとしている過程にあるが、現場で業務を進めながら知識の伝達を進めるためのパイプとして役立つ可能性がある。
PTCのAR製品担当エグゼクティブバイスプレジデントMike Campbell氏は、プレスリリースで「PTCは、今日の製造企業を脅かしているスキルギャップの危機を軽減するために、各対象領域の専門家(SME)の知識をARで活用するという新しい方法による技術伝承のソリューションを提供できることを喜ばしく思う」と述べている。
PTCは産業用のAR技術を提供している企業だ。2015年にAR技術プラットフォーム企業のVuforiaを買収した同社は4月、対象領域の専門家が持っている業務上のノウハウの取得し、伝えるのを支援する製品「Vuforia Expert Capture」を発表した。
Campbell氏はこの製品について、「Vuforia Expert Captureは、ARコンテンツの作成を迅速化する価値の高いソリューションだ。製造企業は、新人作業員の教育や、慣れないタスクを正常に完了するための正確さと速度を向上させるだけでなく、トレーニングのコストと生産性向上を実現するまでの時間を削減できる」と説明している。
この製品を使えば、専門家が製造現場に分散している従業員に段階を追って手順を説明するための資料を容易に作成できるようになる。これは、拡張現実用に作られた、動画による手順説明エンジンのようなものだと思えばいいだろう。また、経験が少ない現場の労働者が、「RealWear HMT-1」や「Microsoft HoloLens」、モバイルデバイスなどでキャプチャーされた作業手順を利用することで、蓄えられた知識を直接活用することもできる。
このARを使った知識伝承戦略はフィールドサービスを担当する現場作業員にも適用できる。筆者が以前書いた記事では、国際石油資本BPが、ARを使用して、専門家が現場に出向いている作業員にリアルタイムで専門知識を移転している事例を紹介した。
Caterpillarも最近、現場で携帯型発電機の保守を行っている技術者のためのARソリューションを試験導入している。
ARに対する期待は大きいが、導入事例はまだ少ない。労働力不足と好景気(減速の兆しがあるとはいえ)が続けば、現場で作業をしながらの指導は、ARの普及に弾みをつける重要な応用事例の1つになるかもしれない。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。