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「MicrosoftやGoogleと戦える」--BoxのCEOに聞く次の戦略

末岡洋子

2019-10-15 06:00

 コモディティー化しているクラウドストレージ市場でBoxは、企業向けのコンテンツ管理を軸に専業ベンダーとして同市場を率いてきた。大学生の時に同社を共同で創業し、現在も最高経営責任者(CEO)を務めるAaron Levie氏は、セキュリティとビジネスプロセスを次の成長の柱に位置付け、APIによるアプリケーション連携によって、MicrosoftやGoogleとの戦いに自信を見せる。同氏にBoxの差別化やベストオブブリード、デジタル化などの戦略について話を聞いた。

--Boxは現在、“ドキュメントを保存する”という製品のみを持っている。次のフェーズをどう考えているのか。

 カンファレンスの「BoxWorks」では、次のBoxのフェーズについて伝えることができた。1つはワークフローで、データを中心にビジネスプロセスを支援する「Box Relay」を強化した。もう1つはセキュリティの「Box Shield」だ。Boxプラットフォーム上にある重要な知的財産を保護できるアドオンになる。3つ目がプラットフォームで、その上にアプリケーションを構築してもらう。この3つがBoxの次の方向性になる。

Box 共同創業者兼最高経営責任者(CEO)のAaron Levie氏。創業14年を迎えて当時20歳だったLevie氏も34歳になり、4カ月前には男の子の父親になった。「Boxを創業していなかったとしても、何かのクラウド企業を立ち上げていただろう」と笑う
Box 共同創業者兼最高経営責任者(CEO)のAaron Levie氏。創業14年を迎えて当時20歳だったLevie氏も34歳になり、4カ月前には男の子の父親になった。「Boxを創業していなかったとしても、何かのクラウド企業を立ち上げていただろう」と笑う

--「Box Relay」「Box Shield」の位置付けを教えてほしい。

 Box Relayはファイルを保存するだけでなく、そのファイルが関連したビジネスプロセスのための機能を提供する。ワークフローエンジンが重要な役割を果たすが、これまでは提携関係にあったProgresslyを2018年に買収することで、当社で再構築した。今後さらに機能を加えていく。

 Box Shieldは、企業が機密性の高いミッションクリティカルなデータをクラウドに置くという点で、重要な転換点になる製品だ。最高レベルのセキュリティでデータベースやアプリケーションを保護したとしても、例えば、CSVなどのフォーマットでファイルがエクスポートされ、共有された後は保護できない。Box Shieldはこの問題に対応するもので、コンテンツだけではなくビジネスプロセスも保護できる。

 セキュリティは、2番目に大きな製品ラインチームで開発に取り組んでいる。Box Shieldでは機械学習を活用しており、これまで組織内にいた開発者や機械学習の専門家がチームに参加している。ユーザーがどのようにドキュメントやファイルを使って仕事をしているのかといったパターンを学び、普段とは違う場所からアクセスが行われたといったような異常を検出できる。ラベルでデータの機密レベルを分類するなどの部分でも機械学習を利用しており、インテリジェントな方法でデータを保護している。

 セキュリティ技術企業との提携も進めている。Box Shieldをプラグインすることで、ユーザーがセキュリティイベントのアラートを合理化して受け取るといったことができるようになる。BoxWorksでは、Splunkとの提携を発表した。将来的に、例えば、Slack内でBoxに保存しているファイルを使ってコラボレーションする際にBox Shieldがそのデータを保護するようなことを可能にしていきたい。これが実現すれば、非常にパワフルなソリューションになるはずだ。

--コスト面のメリットから、多くの企業がデータをオンプレミスで保存している。競合をどう見ているのか。

 コンテンツ管理やコラボレーション、ストレージは450億ドル規模の市場であり、多数のベンダーが共存できる。OpenTextやMicrosoftのSharePointなどと競合するが、金融業界に複数の銀行が存在するように、複数のプレイヤーが展開できる市場だと思う。OpenTextはコンテンツ周りでハイエンドなビジネスプロセスを提供しているし、われわれはたくさんのワークフローが企業の外に拡張されていくと考えている。ユーザーは複数のデバイスからアクセスするので、ここにBoxに優位性がある。われわれはここにフォーカスしたアーキテクチャーを持っている。

 “オンプレミス対クラウド”という点では、企業によって異なるものの、ワークロードの多くがクラウドに移動するだろう。だが、全てではない。10~20年後もハイブリッドクラウドが続くだろう。これがIBMと提携している理由でもある。IBMは顧客のハイブリッド環境を支援しているからだ。

 一方でBox Shieldのような機能は、クラウドを魅力的な選択肢にするだろう。現在ファイルを管理するベンダーは、ファイルを保護するベンダーとは異なっている。例えばDocumentumやMicrosoftのSharePoint、それにセキュリティベンダーの安全化の技術も必要だ。この方法がシームレスに動くとはいえず、ミスマッチがある。Boxにとってチャンスがある。

--Boxは、ベストオブブリードの方向性を強くアピールしている。企業ITの5年後、10年後をどのように予想しているのか。

 “ベストオブブリードのIT”はまだ早期の段階だ。だが着実に、仕事やコラボレーションの在り方を変えており、新しい企業ITが生まれつつある。

 新しい企業ITにおいて従業員は、自分の仕事にとって最適なツールを獲得することができる。コミュニケーションならSlack、ビデオ会議ならZoom、コンテンツ管理ならBoxやAtlassianといった具合だ。このような新しい企業ITのモデルを受け入れる組織が増えており、5~10年後の企業ITの世界では、ユーザーが各カテゴリーから最適なアプリケーションを連携させ、使っているだろう。Box社内でも50~100のアプリケーションを使っている状況だ。

--MicrosoftやGoogleは、これらの技術を1社でスイート(Office 365やG Suite)として提供している。管理と経済性の面で顧客にメリットがある。

 スイートを使うメリットはあるかもしれない。しかし、最後に選ぶのは従業員だ。実際にツールを使うのは従業員であって、彼らは自分の作業において最適なものを選びたいと思っている。

 SkypeとMicrosoft Teams、ZoomとSlackなら、どちらのユーザー体験が優れているのか。私の体験では後者になる。ZoomもSlackもそれぞれの分野で最高のユーザー体験を提供しようと改善を続けており、Boxはそれぞれが連携するように、密に作業している。ユーザー体験の改善は、われわれ専業ベンダーの方がはるかに速いペースで進んでいる。企業としても、従業員が自分の使いたいツールを使えるようにしないと、優秀な従業員を獲得できない。

 だが、数的にはある程度制限されていくだろう。200ものアプリケーションを管理するのは現実的ではない。次第に数的な拡大は落ち着くと見ている。だからと言って、ベンダーがMicrosoftとOracleだけといった過去の時代に戻ることはない。

--ベストオブブリード戦略の次はどのようなことにフォーカスしているのか。

 ERP(統合基幹業務システム)やHR(人事)にチャンスがある。9月にOracleとの提携を発表したが、この分野で大型ベンダーとの連携は初めてのことだが、今後この分野での提携を進めていくので期待してほしい。

--日本企業のデジタル化やクラウド活用の動きをどう見ているのか。

 日本企業のデジタル化が遅れているとは思わないし、非常に順調だ。その裏付けとして、Boxは日本市場でのビジネスが好調だ。われわれにとっては最速で成長している市場の1つになる。

 日本企業は、会社としての変化を決断すると、それに向けて全社的に取り組む。意図のある変革が起こっている。一方で米国は混迷的で、企業はたくさんの技術に投資をしてはいるが、変革に成功しているとは言えない時がある。変革に向けての生産性も低い。日本企業は、CIO(最高情報責任者)やCEO(最高経営責任者)などのトップがミッションを掲げると効果的な方法で実行する。

 世界各地でたくさんのCEOとこのトピックを話しているが、シリコンバレーの企業は、「技術を構築すれば世界の市場が受け入れる」と考えがちだ。しかし、大企業には長年をかけて構築したプロセスがあり、そのプロセスで仕事をしている。CEOとの会話で感じることは、彼らは技術への関心は低く、「従業員にどうやって考え方を変えてもらうか」「企業にどうやって変化の文化を取り込むか」「どうやってより高速に動くか」「コラボレーションするか」といったことへの関心が高い。つまり問題は、“革新的なソフトウェアを調達できるか”ということではない。

 企業には、人・プロセス・ビジネスモデルがあり、デジタル変革とは、技術ではない。正しい戦略があり、正しいチームがあり、正しい文化があることが重要だ。俊敏で高速な変革を成し遂げる文化だ。ソフトウェアを実装したからといって、ソフトウェアカルチャーを構築できるとは限らない。

(取材協力:Box Japan)

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