スペイン・バルセロナで開催の「SAP TechEd Barcelona 2019」で、独SAPは“ビジネスインテリジェントプラットフォーム”という概念を打ち出した。これを実現するための施策の1つとして、データに関連する技術やインテリジェンスに加えて、同社以外の製品・サービスとのデータ統合を強調する。クラウド基盤では、Amazon Web Services(AWS)が、SAP認定済みの大容量メモリーインスタンスである「EC2 High Memory」の強化を明らかにした。
SAPで全て作る必要はない--SAPの統合戦略
「SAPは思っているよりもオープンだ」と切り出したのは、取締役会メンバーで最高技術責任者(CTO)を務めるJuergen Mueller氏。SAP TechEdでは、アプリケーション統合とインフラ技術についてのオープン性を語った。
アプリケーション統合に関しては、2019年内の一般提供が発表されたデータウェアハウスサービス「SAP Data Warehouse Cloud」がある。SAP製品以外のシステムのデータソースとも接続して意思決定などに利用できる。
Mueller氏の基調講演では、「SAP Cloud Platform Integration Suite」も紹介された。これはプロセスやヒト、データ、デバイスを統合するもので、SAP製品間の接続は既存のパッケージを使うことで数倍早く実装できるとする。Mueller氏によると、最も多いユースケースはSAPシステムと政府システムとの間の統合だという。そのための統合機能をドイツと韓国向けに提供すると発表した。
SAP Cloud Platform Integration Suiteは、SAP/非SAPのシステムのデータを統合するためのツールセットになる
Mueller氏によると、SAP Cloud Platform Integration Suiteの一部であるAPIの総合カタログサイト「SAP API Business Hub」では、1200以上の統合フローが提供されているという。機械学習ベースのコンテンツアドバイザー機能を利用して、最適なマッピングフィールドを自動提案したり、160以上のシステムと接続したりできるOpen Connectorsなどがある。
こうした統合機能により、ユーザーインターフェース(UI)「SAP Fiori」のオーバービューページで顧客データ(S/4HANA Cloud)や営業案件データ(Salesforce)、サービスインシデント情報(ServiceNow)を統合して表示したり、SAP Analytics Cloudで運用データ(Operation Data:Oデータ)と体験データ(Experience Data:Xデータ)を組み合わせたりすることができるという。
9月には、SAPPHIRE NOWで一般提供になったアプリケーション拡張「SAP Cloud Platform Extension Factory」の強化も発表している。
こうしたオープンなアプローチについて、Mueller氏は「SAP社内の文化が変わり、もっとオープンになって、もっと顧客を理解しようという社風になった」と説明する。「(前職の)最高イノベーション責任者として、どうやって差別化できるか、競争優位性は何か、勝つために必要なことは何かを考えた。そのためには顧客中心になる必要がある。そこでは全てをSAP製品で作る必要はない」と続けた。
クラウド事業者との良好な関係
SAPはクラウド基盤において、Amazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)、Alibaba Cloudといった“ハイパースケールベンダー”と協業している。これまでハードウェアベンダーと構築してきた関係を、IaaSを提供するクラウド事業者にも拡大するものとなる。
SAP TechEdでは、AWS向けに「SAP Data Custodian」の提供を発表した。SAP Data Custodianはパブリッククラウドにあるデータを可視化・管理するための技術で、「AWSがインフラレベルで提供しているセキュリティ技術を補完するものになる」とMueller氏は説明する。
基調講演では、AWSでAmazon Elastic Compute Cloud(EC2)担当バイスプレジデントを務めるDavid Brown氏がゲストで登場し、SAPとEC2の関係について語った。
SAPとAWSの関係は11年に及ぶという。「SAP認定のクラウドとして初めての2.4TBインスタンスを提供するなど、“初”がたくさんある」とBrown氏は胸を張る。「SAP Cloud Platform on AWS」など、SAPは重要な顧客でもあるという。
SAPとAWSとの関係は11年に遡る
Brown氏が両社の共通顧客として挙げたのが、ドイツの大手EC(電子商取引)事業者のZalandoだ。月間3億件のページビューを誇る同社は、「SAP S/4HANA on AWS」でシステムを構築し、年間9000万に及ぶ発注処理などを行っているという。また、自動車メーカーのLamborghiniが、SAP ERP Central Component(ECC)とOracle DatabaseをSAP HANA on AWSに移行したことも明らかにした。
AWSが選ばれる理由については、「SAP認定の種類が多く、さまざまな選択肢を提供できる。クラウドなので簡単かつ高速に実装できる」とBrown氏。これに加えて、コスト削減が図れることなどのメリットから、SAPシステムの運用にAWSを選ぶ顧客が増えていると語った。
Brown氏はまだ、2018年に発表した大容量メモリーインスタンス「EC2 High Memory」に、SAP認定済みの18TB/24TBのベアメタルインスタンスを加えたことを発表した。「AWS Nitro Systemを活用できて性能も優れている。管理コンソール経由でさまざまなAWSサービスにアクセスすることもできる」
SAPのJuergen Mueller氏(左)とAWSのDavid Brown氏
(取材協力:SAPジャパン)