拡張現実(AR)と仮想現実(VR)は単なる流行語ではない。PwCが実施した最近の調査によれば、これらの技術によって、世界経済は2030年までに1兆5000億ポンド(約210兆円)拡大する可能性があるという。
少なくとも10年(あるいはおそらくそれ以上)前から、ARとVRは将来重要な技術になると言われてきた。しかし現時点では、FacebookやMicrosoft、Googleなどの大企業が研究に何十億ドルもの資金を投じているにも関わらず、いまだにニッチな分野でしか使用されておらず、目新しいもの(確かに見栄えはよいが)だと見なされる段階にとどまっている。
しかしPwCのレポートでは、2030年までに世界で2350万人弱が仕事でARやVRを使用するようになると予測している。この数字は現在の約27倍にあたる。また、ARとVRによって経済の生産性は向上し、多くの仕事が根本的な変化を遂げるという。
最初に変わるのは従業員のトレーニングだ。レポートでは、ARやVRを利用すれば、特定のシナリオのデジタル版を作成することで、より短時間でコスト効率が高く、安全な方法で、効果的に従業員のスキルを向上させられると説明している。
PwC UKでイマーシブデザイン部門の責任者を務めているSarah Potter氏は、「私たちは、VRを使ったスキルのトレーニングや開発を、1日につき1000人以上の人々に提供してきた。没入型の体験は優れた学習手段だ」と述べている。
「この技術は、学習者を会話や、査定や、面談といった業務の困難な場面に送り込むことができる。記者会見の場面や、プレッシャーが大きい状況でプレゼンテーションを行う場面を作り出すこともできる。VRを使用すれば、学習者を多数の人から注目されるステージ上に上げることができる」(Potter氏)
一部の企業は、すでにこれらの技術をトレーニングに利用している。例えば、ソフトウェアサービス会社であるPTCは、ARを使って経験豊富な労働者の専門知識を「記録」し、それを新規採用した従業員に伝えるためのプログラムを販売している。
「Vuforia Expert Capture」と呼ばれるこのプログラムは、専門家がウェアラブルデバイス(Microsoftの「HoloLens」など)を装着して行った作業を記録することができる。その後その内容から、ほかの作業者がまねられるように、手順を音声の説明付きで順を追って説明するARインターフェース用の動画を作ることができる。
PTCによれば、Vuforia Expert Captureは、製造業界が直面している労働者のスキルギャップの問題を緩和するのに特に有効だという。
全米製造業者協会のManufacturing Instituteは、製造業では向こう10年間、何百万件もの求人が埋まらない状態になる上、新規雇用の労働者のスキルが退職する労働者よりも劣っているため、さらに事態が深刻化すると予想している。PTCは、同社のARトレーニングサービスを利用すれば、技術者のトレーニングにかかる時間を最大で50%短縮できると主張している。