日本マイクロソフトは12月16日、国内の中堅・中小企業やスタートアップ企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援する目的で、東京商工会議所が展開する「はじめてIT活用・1万社プロジェクト」と連携することを発表した。
併せて同社は、山口フィナンシャルグループ(山口FG)およびブレインパッドと山口銀行、もみじ銀行、北九州銀行の顧客データを統合し、地方銀行初というPaaS(Platform as a Service)の運用を開始したことや、スタートアップ企業支援策として同日から「The Connect」を実施することも発表した。日本マイクロソフト 業務執行役員 コーポレートクラウド営業統括本部長の三上智子氏は、「デジタルネイティブの顧客に対する技術支援と大企業とのマッチング、共同マーケティングが3本柱」と取り組みを説明した。
日本マイクロソフト 業務執行役員 コーポレートクラウド営業統括本部長の三上智子氏
マイクロソフトが2019年に実施した各種調査によれば、大企業でWindows 10への移行を開始したのは95%、クラウド利用率は92%に達する一方、中堅・中小企業でWindows 7のサポート終了を認識しているのは81%、クラウド利用率は46%にとどまったという。このような背景から同社は「中堅・中小企業の働き方改革」「中堅・中小企業のビジネス課題を解決するデータ活用の変革」「スタートアップ企業の変革」という3つの切り口で各施策を実行し、「中堅・中小企業のクラウド利用率を2020年までに50%へ押し上げる」(三上氏)という目標を掲げる。
その一環が東京商工会議所の「はじめてIT活用・1万社プロジェクト」支援になる。同プロジェクトは、IT未活用・低関心層の60~70代の中堅・中小企業経営者を対象に、3年間で1万社に直接アプローチし、ITの業務利用を推進する取り組みだ。
マイクロソフトはOffice 365の無料試用版を3カ月間提供し、東京商工会議所が実施する中堅・中小企業向けIT活用セミナーなどへの講師派遣、Office 365の活用紹介を実施していく。東京商工会議所から中堅中小企業への直接アプローチを介したOffice 365の活用ノウハウを提供する。東京商工会議所は、マイクロソフト以外にもDonuts、Sansan、ビズネット、マネーフォワード、ユビレジ、ワウテック、凸版印刷との提携を発表しており、「WordやExcelは幅広く普及している。Office 365も中堅・中小企業が抱える(人材不足などの)課題解決や生産向上につながる」(東京商工会議所 理事・事務局長の小林治彦氏)というのが提携理由になる。
三上氏は、同様の取り組みを「全国の商工会議所に広めたい」としつつ、独自施策として、サイバー攻撃の可視化を実施する「Microsoft 365セキュリティ診断」、コラボレーション統合ツールの利用を体験する「Microsoft Teams体験ワークショップ」、日本マイクロソフト社員の活用方法も含めて体験できる「Office 365体験ワークショップ」を通じて働き方改革を支援するとした。
東京商工会議所 理事・事務局長の小林治彦氏
山口銀行、もじみ銀行、北九州銀行を傘下に持つ山口FGは、3行で異なるグループウェアを利用し、組織を横断した情報連携が困難だったとして、2019年1月にOffice 365を導入した。また、3行では異なる勘定系と情報系のシステムを運用していたため、レポート作成時にシステム部門が点在するデータを収集しなければならず、完成までに1~2週間を要していたという。この情報の”サイロ化”状態を解決するため、2018年11月に3行の統合データベース構築プロジェクトを開始し、システム基盤としてMicrosoft Azureを採用した。同データベースはAzure Storage Blobに格納したデータからSQLを用いたPower BIを用いた定型レポートの参照環境を実現する。
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このプロジェクトで、ブレインパッドは統合データベースの構築とデータ活用の支援、山口FGはデータ分析の知見やノウハウを用いたDX推進、マイクロソフトはOffice 365活用支援やOffice 365およびMicrosoft Azureの技術コンサルティングを担当した。今後はブレインパッドのレコメンドエンジン「Rtoaster」を活用し、顧客需要に沿った商品の提案といった展開も計画している。同グループは顧客データとタブレットのGPS情報をPower BIで結合させ、顧客先への移動ルートをマッピングするなど営業支援に用いる事例を紹介、グループ IT統括部 副部長の高田敏也氏は、「地域の地方中堅中小企業のDX推進を支援する」と説明した。
山口フィナンシャルグループ IT統括部 副部長の高田敏也氏
同日の発表会ではMicrosoft Azureを採用したリンガーハットのバックオフィス業務改善事例も披露された。従来は店長の経験に依存し、Excelベースのデータ管理によって属人化していたという。
そこで既存で基幹システムデータをMicrosoft Azureのデータウェアハウスに移し、天候データなどと組み合わせて「Azure Machine Learning Service」を用いた売り上げ予測や、Azure SQL Databaseによる発注の自動計算と適正化および標準化を進める。現在は本番稼働を目指している段階ながら、経営管理グループ 情報システムチーム部長 の是末英一氏は、「日次更新に要した時間を半減し、(機械学習の売り上げ予測も)3年分の日別データを店舗別に予測を行っている。比較的満足できるレベルに推移した」との手応えを語った。
今後は異なる要素を組み込んだAI(人工知能)モデルの構築や、異業態の「浜勝」への展開、在庫入力など手作業の自動化を目指し、「(スタッフには事務作業ではなく)接客・調理に専念する体制を強化したい」と是末氏は語る。
リンガーハット 経営管理グループ 情報システムチーム 部長の是末英一氏
マイクロソフトは一連の施策のほか、オンライン学習プログラム「MS Learn」の提供や、「1Day Azure」トレーニングなどを通じた人材育成の支援、東京・名古屋・大阪で開催しているDXセミナー、既存システムの稼働状況を可視化してクラウド移行メリットを判断する「既存IT環境の診断サービス」、Microsoft Azure活用のウェブセミナーやオープンハック、ハックフェストの活用した「クラウド環境の構築支援」などの施策も展開し、中堅・中小企業のDXを推進する。
スタートアップ支援施策とする「The Connect」では、クラウドの設計と設計の見直しを通じた技術支援、Microsoft AzureやOffice 365の無償提供(一部条件あり)、同社との共同販売や大企業とのマッチングを行う営業支援、連携した広報活動やメディア連携を通じたマーケティング支援を実施する。
同社は、グローバルではスタートアップ企業支援の「Microsoft for Startups」を展開しているが、The Connectは日本だけの施策になる。三上氏は、「2020年中に100社を目標としている。大企業とスタートアップ企業のマッチングで日本の社会課題を解決したい」と意気込みを語った。