企業セキュリティの歩き方

サイバー攻撃では「奇襲の成功」が約束されている理由

武田一城

2020-02-25 06:00

 本連載「企業セキュリティの歩き方」では、セキュリティ業界を取り巻く現状や課題、問題点をひもときながら、サイバーセキュリティを向上させていくための視点やヒントを提示する。

 前回の記事では、現実世界の戦闘や戦争において、奇襲の条件が成立した場合に、圧倒的勝利を得られるということを解説した。そこでは、「より短期で目的を達成する」ことが重要であり、「消耗戦や長期戦を避けるべき」と述べた。ただし、これらは「孫子の兵法」にもあるように、あくまで現実世界で起きる物理的な戦闘での話だ。孫子の時代にコンピューターはなく、サイバー空間も存在しない。そこで今回は、サイバー空間の戦闘で奇襲が成功する要因について述べていきたい。

要因1:「隠密行動」

 まずは、「奇襲が成功要因」になる理由を歴史からひもとく。その1つ目にして最大の要因とは、目的地点までの隠密行動に成功することだ。

 前回の記事で例に挙げた真珠湾攻撃も、まさにその典型と言えるだろう。ハワイの真珠湾を眼下に収めた日本の攻撃飛行隊は、奇襲の成功を確信したはずで、飛行隊が既に攻撃態勢に入っているにも関わらず、米国側は防空のための戦闘機や対空砲火がほとんどない状態だったからだ。このような理想的な奇襲は、一方的な戦いにならざるを得ない。

 この時、日本の連合艦隊はアリューシャン列島の単冠湾(ひとかっぷわん)から出航し、目的地の真珠湾があるオアフ島(の230海里付近)までの10日間以上の航程において、米国の哨戒網を避けることに成功した。まだレーダーがない時代とは言え、このような長征で空母6隻を含む大艦隊が敵に察知されず隠密裏にたどり着けたことは奇跡に近い。一方で米国は、この奇襲を知っていたがあえて放置することで、対日開戦に仕向けたという謀略論も根強くある。真相は不明だが、そのような謀略論が80年近く経つ現代でも言われ続けるほど、この時の隠密行動は成功したと言えるだろう。

 もちろん、奇襲の成功例はこれだけではない。例えば、紀元前219~201年のローマ帝国とカルタゴでの間で発生した「第二次ポエニ戦争」における、ハンニバルによるアルプス越えの作戦や、日本の戦国時代の三大奇襲「河越城の戦い」「厳島の戦い」「桶狭間の戦い」(いずれも夜戦であったことから日本三大夜戦とも呼ばれる)など、いずれも隠密行動に成功して、敵の虚を突くことができた。これらはいずれも圧倒的な兵力差を覆した戦闘であり、奇襲の絶対的な優位性を存分に発揮した戦いだった。

 なお、攻撃の寸前まで「隠密行動」に徹することができるかどうかは、ばくちのようなものだが、成功する主な要因は以下の4つになる。

  1. 大前提として敵が油断していなければならない
  2. 味方にほんのささいなミスがあっても許されない
  3. 隠密行動を徹底するために、あえて兵力を絞り込む場合がある
  4. 人間には制御できない自然現象なども必要とする

 このため、奇襲が成功する確率はせいぜい数%と言ったところだろう。そのため、奇襲戦法は多用するものではなく、滅亡寸前の弱小勢力がイチかバチかに賭けるという場合が多い。要は、「負けて元々」という大きなリスクのある作戦だ。

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