Amazon Web Services(AWS)に特化したクラウドインテグレーターのサーバーワークスは、1月末時点で7500以上のプロジェクトを手掛け、2014年からAWSの最上位のコンサルティングパートナーとなっている。企業のクラウド利用が本格化する現状でも代表取締役の大石良氏は、「まだスタートに立った段階に過ぎない」と語る。
同社は、2月に創業20年目を迎えた。AWS事業に特化したのは、2009年のこと。それ以前は、EC(電子商取引)のASP(アプリケーションサービスプロバイダー)事業や、モバイルサイトの構築・運用を手掛けた。この頃は大学など数百の教育機関を顧客に持ち、特に受験の合格発表がある2月は、ウェブサイトで合否を確認する受験者のアクセスが一気に激増する状況を経験。これがクラウドインテグレーターに舵を切る転機になったという。
サーバーワークス 代表取締役の大石良氏
「合格発表日は午前のわずか数時間にだけアクセスが集中する。その一瞬のためだけにサーバーリソースをどう確保するか。AWSがサービスを始めたばかりの2007年に使ってみて、(現在のオートスケーリング機能などに)衝撃を感じた。2008年もAWSを徹底的に使い、AWSの専業になることに決めた」
だが大石氏によれば、当初はシステムインテグレーションではなく、AWSを模倣してIaaS(Infrastructure as a Service)プロバイダーとして事業を立ち上げる考えだったという。
「ハードやソフトを調達して組めば、簡単にサービスができると思っていた。しかし、エンジニアと一緒にS3のストレージなど使ってみると、実は安定したサービスを提供するために非常に高度な技術を駆使していると分かり、本当の“巨人”がやってきたと。まねをしても戦えないし、勝てないと痛感し、AWSの上でビジネスをすることに決めた」
現在のIaaS市場は、AWSとMicrosoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)がシェアの多くを占める。2010年代前半は国内ITベンダー各社もIaaSに参入していたが、現在は厳しい状況にある。
「いま厳しいと言われる国内他社は、既にある自前のデータセンターを使わざるを得ないことが課題だと思う。私たちの場合は、データセンターを持つ前に海外勢の実力を知ることができたのが幸いしたかもしれない」と大石氏は話す。
同社のクラウド事業が広く知られるきっかけになったのが、2011年3月に発生した東日本大震災だった。当時は、混乱が続く中で被害状況や救命・支援に関する情報を迅速に発信したり共有したりできる手段としてクラウドサービスやSNSなどが大活躍した。同社も、震災発生から長く日本赤十字社の義援金の受付システムなどを支えた。
企業でIaaSなどのクラウドが利用されだした当初、ユーザーはスタートアップやコンピューティングリソースの変動が大きいオンラインサービスが中心だった。その中で同社は、当初から大企業システムのクラウド移行に軸足を置いてきた。
「2008年頃の市場調査で、クラウドの本命はPaaS(Platform as a Service)と言われていたが、PaaSは新規システムに向いており、企業のIT予算の7割が既存システムの保守に割り振られている現実では、PaaSに注力してもクラウドのビジネスは厳しい。このため(実需は)IaaSに注力してきた」