新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大する中、多くの企業や組織が従業員などの感染リスクを減らすためにテレワークの緊急導入を進めている。テレワークは、新型コロナウイルスの流行以前に「働き方改革」の一貫としても注目されてきた。今回の事態から浮上しつつあるテレワークの課題と定着化のポイントについて、EY Japan ピープルアドバイザリーサービス(組織・人事コンサルティング部門) リードパートナーの鵜澤慎一郎氏に聞いた。
テレワークへの取り組み状況が明白に
テレワークは近年、企業の「働き方改革」での方策として注目されてきた。しかし、2019年版の総務省「情報通信白書」によれば、企業のテレワーク導入率は約19%にとどまる。鵜澤氏は、「この数値は全産業の平均であり、従業員2000人以上の大企業でも46%ほど。新型コロナウイルスの流行を受けて、大半の企業が準備不足の状態でテレワークを導入しようとしている」と話す。
同氏によると、企業のテレワークの実施状況は大きく3つに分かれる。1つは、新型コロナウイルスの流行以前からテレワークを全社利用しているケースで、「いつでもどこでもオフィスの外で勤務する環境が定着しており、新型コロナウイルスの流行でもほぼ問題なく対応できている」(鵜澤氏)という。特に外資系企業で取り組みが進んでおり、以前からテレワークを導入しているEY Japanでも、3月から約8000人が原則テレワークでの勤務に移行しているという。
もう1つのケースは、今回の新型コロナウイルスの流行を受けて、テレワークの定着化に乗り出そうとしている企業だ。今回の事態を契機として捉え、組織のトップがテレワーク制度を恒久化させる意思決定を示したところがある。
しかし鵜澤氏の所感では、これら2つのケースに当てはまる企業は、情報通信白書が示すのと同程度しかなく、大半は「今までの流れから仕方なく取り組んでいる、という感覚の企業が目立つ」(鵜澤氏)という。これが3つ目のケースになる。
このケースに当てはまる企業では、仮に以前からテレワークを部分導入していても、新型コロナウイルスへの対応で新たにテレワークを行う従業員に支給するPCが確保できないなど、準備不足の問題が露呈している。
また、「例えば、書類に捺印が必要だがテレワークでうまく仕事が回らないといったように、オフィスで働くことを前提にしたままというところもある。『新型コロナウイルスのパンデミックは流行だからいずれ収束するだろう』と決め込んで、持ちこたえようするところも多い」(鵜澤氏)という。