本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、米IBM CEO(最高経営責任者)のArvind Krishna氏と、日本HP 専務執行役員の九嶋俊一氏の発言を紹介する。
「コロナ危機はビジネスにとって重要な転換点になる」
(米IBM CEOのArvind Krishna氏)
米IBM CEOのArvind Krishna氏
米IBMが5月5〜6日(米国時間)にオンライン形式で開催した年次イベント「Think Digital Event Experience」のオープニングキーノートで、4月6日に同社CEOに就任したArvind Krishna(アービンド・クリシュナ)氏がスピーチを行った。冒頭の発言はその際、新型コロナウイルスの感染拡大による危機がビジネスにもたらす影響について語ったものである。
Krishna氏のスピーチの全容については関連記事をご覧いただくとして、ここでは同氏のスピーチの要点について、日本IBM 常務執行役員 クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部長の伊藤昇氏がオンラインで説明会見を開いたので、そこから印象深かった話を取り上げたい。
日本IBM常務執行役員クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部長の伊藤昇氏
伊藤氏によると、Krishna氏はまずコロナ危機について冒頭のように発言し、「今こそ新しいソリューション、新しい働き方、そして新しいパートナーシップを創出する機会だ」と強調した。
そうした中で、Krishna氏はIBMが特に注力している事業として「ハイブリッドクラウド」と「AI(人工知能)」、そして「5G(第5世代移動体通信)」を挙げ、「これらが社会全体、およびあらゆる企業のデジタルトランスフォーメーションを牽引し、これまでにないスピード感で変革が進展していくだろう」と述べた。
中でもKrishna氏はAIについて、「AIは企業にとって必須であり、今後、全ての企業が『AIカンパニー』になっていく」と強調した。これについて伊藤氏は、「IBMはこれまで『eビジネス』をはじめとして企業のビジネス形態を形容してきたが、今後は新たな企業の姿として『AIカンパニー』を前面に押し出していく形になる」と解説した。
また、ハイブリッドクラウドが求められる理由についてKrishna氏は、「History(既存資産の活用)」「Choice(選択肢の提供)」「Physics(物理的距離の確保)」「Law(法規制対応)」の4つを挙げた。
伊藤氏によると、この中でPhysicsについてはすなわち「エッジコンピューティング」のことを指しており、「エッジコンピューティングを含めてハイブリッドクラウドが必要になってくる」と説いていたという。
筆者もKrishna氏のスピーチを聞いたが、気さくな感じながら威厳と風格があり、全体のバランスが取れている印象を受けた。
ただ、同氏にとって試練なのは、長い間の課題であるIBMの企業体質としての「転換」がまだ道半ばであることだ。前CEOのGinni Rometty氏の時代からハイブリッドクラウドとAIに注力しているが、まだ全社の成長エンジンにはなり得ていない印象だ。業績がなかなか右肩上がりにならないのが、同社の体質転換の難しさを物語っている。
果たしてKrishna氏は、その至難の業をやってのけることができるか。経営手腕に注目したい。