IBMは米国時間5月5~6日、オンラインイベント「IBM Think Digital Event Experience」を開催した。毎年“物理的な場所”で開催していたイベント「IBM Think」に代わるオンラインイベントとなり、4月に就任したCEO(最高経営責任者)のArvind Krishna氏をはじめ、新経営陣がそろって参加者にメッセージを送った。
CEO就任前はクラウド事業を率い、Red Hat買収を指揮したKrishna氏は、現地時間5日の基調講演でハイブリッドクラウドと人工知能(AI)へのフォーカスを前面に出した。
4月にIBMの新CEOに就任したArvind Krishna氏
ハイブリッドクラウドについては、企業の歴史としての複雑なワークロードやアプリケーションの存在、選択肢、高まるエッジの重要性、そして法律の4つが、ハイブリッドクラウドを不可避にしているとする。Krishna氏が「顧客企業はハイブリッドクラウドがもたらす巨大なチャンスを活用するために、大きなかけをした」と説明するRed Hatの買収により、IBMは「ミッションクリティカルなアプリケーションを、一度構築すればどこでも動かすことができるという独自の機能を得た」(Krishna氏)と胸を張る。
折しも世界は、2020年に入りあっという間に感染拡大した世界的流行病「COVID-19」の渦の中にある。だがこれは、以前からあった問題にすぐに対応する必要があることを再認識させている、というのがKrishna氏の見方だ。企業のサプライチェーンが耐えられるか、どのワークロードをパブリッククラウドに展開するのか、どのITタスクを自動化して人をより価値の高い作業にフォーカスできるようにするのか、在宅勤務を含めたITインフラの安全性確保をどうするか、などの「以前からの問題にスポットを当てた」とKrishna氏。COVID-19により、「ハイブリッドクラウドとAIの重要性は増す一方だ」と続ける。
「COVID-19が教えたものがあるとすれば、技術ソリューションが重要ということだろう。技術ソリューションによりわれわれはスピード、柔軟性、洞察、イノベーションなどが得られる。技術プラットフォームは21世紀における企業の競争優位性の土台だ」(Krishna氏)
新型コロナ禍において、これまでの医療の限界を感じているのが米国の健康保険Anthemだ。4000万人の加入者を抱える同社は、ここ数年、健康保険からヘルスケアプロバイダーへの転身を図ってきた。その狙いは、ヘルスケアをより予測性があり、プロアクティブ(前向き)でパーソナライズされたものにすること。「現在のヘルスケアは事後処理的で受け身だ。今回のCOVID-19危機は米国のヘルスケアシステムの課題を露呈してしまった」とAnthemのシニアバイスプレジデントで最高デジタル責任者を務めるRajeev Ronanki氏は述べる。
取り組みの1つとしてRonanki氏が紹介したのが、「Sydney Health」というアプリケーションだ。加入者は自分の健康状態について調べたり、遠隔医療の支援を受けられたりするなどの機能を提供するほか、データを活用したパーソナライズや洞察も得られるという。「人々は複雑なシステムをナビゲートしなければならない。(Sydney Healthは)全てのヘルスケアのデジタルの入り口を目指している」とRonanki氏は説明する。
その土台として同社は、マルチクラウド対応のプラットフォームを構築した。「ヘルスケアにはたくさんのポイントソリューションがあるが、全体として機能できず、体験もよくなかった」とRonanki氏。Red Hat OpenShiftをはじめIBMのマルチクラウド サービス、マネージドクラウドサービスなどを利用して統合し、エンドツーエンドの体験を提供しているという。
IBMを選んだ理由には、Red Hat OpenShiftとKubernetesによるコンテナー化により、AIとAIのサプライチェーンを高品質にできること、外部の機能をソリューションに統合できること、相互運用性や開発ツールなどを挙げた。「IBMはエンドツーエンドで効率性のある機能を提供している。機能が統合されているので自分たちで作業する必要がない」(Ronanki氏)
Anthemでは、以前からAIなどの技術を活用した変革に取り組んできたが、COVID-19を受けてさらに加速させているという。
IBM CEOのArvind Krishna氏(左)とAnthemのRajeev Ronanki氏(右)