本連載は、これまで教育ITの現状やシステム運用管理の重要性、ベンダーとの付き合い方などを述べてきた。今回は、それらの現時点での総括として、教育ITが必要になってきた“そもそも論”と、教育ITが成功した暁に実現するであろう、素晴らしい将来像について述べていきたい。特に今春から世界レベルでまん延している新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大による、学校の休校に関連した内容を記す。
2019年末に中国の武漢で局所的に発生したウイルス性肺炎が、このような世界レベルのパンデミックという歴史の教科書でしか見たことがない状況をもたらすとは、誰しも思わなかっただろう。まずは、この状況で真っ先に休校となった学校について、教育ITの観点から述べたい。
なぜなら、筆者はこの数年間にわたって教育ITの記事を何度も執筆してきたが、当初憂慮したこととは全く違う今回のような突発的な要因で、教育ITを取り巻く状況が変わってしまったからだ。もちろん、それなりに準備を重ねてきた学校や自治体、そうではない学校や自治体で状況は異なるだろう。しかし現実問題として、子供たちは学校に行けず、家や近所の公園で過ごすしかないという状況を、少しでも読者の皆さんに届けられればと考えている。
大学におけるIT化の現状
新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言で、国民の大部分が外出自粛などに追い込まれた。筆者も、もちろん例外ではなく、4月の新年度以降は現時点まで一度も出社していない。筆者には大学2年生の娘と高校3年生の息子(2020年現在)がいる。もちろん学校は休校しているので、両名ともにステイホーム状態である。
まず大学の状況について述べていきたい。大学は、小中高校とは異なり、助成金などのIT整備を推進している制度もあって、1990年代からIT化や学内のネットワーク化が進んでいる。筆者の大学時代はちょうどその推進が始まった頃だった。筆者の母校には、その頃としては非常にリッチな環境の1.5Mbpsの専用回線があった。校内には学生が自由に使えるPCもたくさん設置され、IT化の推進という面では非常に進んでいる大学だったと記憶している。それから四半世紀が過ぎて、一般的な大学でも学内に無線LANアクセスポイントがメッシュ状に張り巡らされているITインフラが整備された状況が当たり前になっているという。
しかし、やはり学校によってIT環境の差はどうしても出てしまう。まず、情報工学などの学部や学科がある大学、いわゆる理系の大学であれば、教べんを取っている教授自身がその分野に明るいことも多い。もちろん予算の多寡は学校経営の状況によって変わるが、ITが一般に普及したこの20数年間で、手間暇と時間、そしてさまざまな工夫を重ねながら、一般企業などと変わらないレベルのITシステム基盤などは整っている学校も多いだろう。それに対して、文系の学部や学科しかない大学においては、もう少しIT導入の難易度が上がってしまいがちだ。
ただし日本では、一般企業へのシステム導入がベンダー主導で行われてきたこともあり、ITの導入ノウハウがその組織自体になくても、それなりにできてしまう。つまり、予算さえあれば一定レベルのIT導入はそれほど難しくはない。また、運用面の問題についても、SIerからネットワーク、サーバー、エンドポイントまで広い範囲で対応できるエンジニアを常駐させることで対応することができた。筆者が以前に所属していた企業は、そのような広範囲に対応できるエンジニアが数多く在籍するSIerだったこともあって、数多くの大学にエンジニアを常駐させるビジネスがうまくいっていた。これは、ベンダーに依存する仕組みだが、日本の大学にIT環境を整備させるのには、非常に有効な方法だったと言える。