なぜ会社から「紙」はなくならないのか--紙の存在が業務効率を低下させている

難波孝 (クニエ)

2020-05-18 07:00

はじめに

 近年デジタルトランスフォーメーション(DX)やテレワークの推進などにより、ペーパーレスという言葉が脚光を浴びている。

 しかしながら筆者としては、皮肉にもペーパーレスの取り組みによって会社の文書管理そのものが破綻し、企業活動に大きな損失を与えるのではないかと危惧している。これは決して大げさではない。

 皆さんは、ペーパーレスと聞くと何を想像するだろうか?

  • 「紙文書をスキャンしてPDFにすること」
  • 「ハンコを無くして電子承認プロセスを導入すること」
  • 「工場にタブレットを配布して従来紙で行っていた作業をデジタルデバイスで行うこと」
  •  おそらく業務内容や会社の方針などによってさまざまな答えが返ってくるのではないだろうか。裏を返せば「ペーパー(紙)」を「レス(減らす)」すること以外においては、いまだ社会全体で共通の定義がなされていないことを意味している。

     ペーパーレスを実施するということは、管理を紙から電子データへ変更することであり、無論、紙文書の管理方法と同様というわけにはいかない。では、文書管理のルールや仕組みをどのように改めなければならないのか。今企業が行うべき文書管理の在り方について、インシデントリスクマネジメントの観点から4回の連載で述べていく。

    会社から紙がなくならない原因

     いくらペーパーレスを実施しても、会社から紙がなくならない理由はそもそも何だろうか。原因は概ね次の3つに分類される。

    原因1:とりあえず紙に出力して確認

     PCで作成した文書を確認する際に、紙に出力するという人は多いだろう。現在の教育現場は変わりつつあるようだが、我々の学生時代は授業もテストもすべて紙で行われており、紙で見る習慣が身についてしまっている。そのため文書の作成はPCで行い、確認作業は紙で行う人が今なお多い。問題は、確認後の紙をきちんと管理(特に廃棄)していないことである。不要な紙文書を残しておくことは、会社にとって時に致命傷となりかねない。これについては、次回以降の回で詳しく述べる。

    原因2:クライアントや外注先など外部とは紙でやり取りしている

     最近では請求書の電子化を検討する会社も多い。しかしながら他社との電子データの連携には、先方の環境も考慮する必要があるなど、依然としてハードルも高い。筆者の経験上、電子請求の仕組みを構築した会社であっても、平均で2~3割の取引先とは今なお紙で請求書をやり取りしている。そして、紙で受領した請求書をそのまま管理している会社が極めて多い。

    原因3:多くの日本企業はいまだに原本=紙という意識が強い

     紙がなくならない一番の原因であり、日本企業における文書管理の最大の課題である。ペーパーレスを推進している会社ですら、スキャンはするが、あくまで原本は紙であり、紙を倉庫に預けているという話をよく耳にする。

     もちろん紙のまま保存しなければならない文書もあるが、e-文書法や電子帳簿保存法などの法律で大抵の文書は電子保存が認められるようになった。しかしながらこの「大抵の」が曲者である。実はe-文書法も電子帳簿保存法も複数回に渡り要件の緩和や改正が行われており、専門家でもない限りすべてを理解することは至難の業なのだ。

     また、法律では電子化後の紙原本の廃棄については触れられておらず、紙を廃棄するか否かは企業の判断に委ねられている。電子化したデータの原本性に関する担保や確証がないため、企業側として電子化したデータが目的を達成できない状態が発生する懸念を払拭できない。その結果、責任回避の理由から、とりあえず原紙も保存という二重保存状態が慢性化している。

     本来はペーパーレス化することにより、管理や業務が“効率化”されるべきであるが、紙 と電子データの二重保存に見られるように、ペーパーレスの目的を果たせていないことが往々にしてある。つまりは今回紹介した「紙がなくならない3つの原因」が改善されない限り、たとえ一時的にペーパーレスを推進したとしても、ペーパーレスがもたらす本来の恩恵にあずかることは少なく、むしろ業務の総量としては増える可能性すらあると言えるかもしれない。

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