最近発表された、サイバー犯罪活動に対する一般の人の態度に関する研究では「自分の声に耳を貸さない権力者が被害に遭うのは、いい気味だと思うか」という問題を扱っている。
今日では、サイバー攻撃の幅と範囲が大きく広がっている。安全でないクラウドサーバーやデータの盗難で流出した情報が、クレジットカード情報の取引フォーラムで高値で売買され、IDの窃盗やオンライン詐欺が横行し、個人情報の大量取引も当たり前に行われている。またランサムウェア攻撃で病院の患者が亡くなり、電力会社への攻撃で都市全域で停電が起こり、国家の後援を受けた攻撃グループが、政治的、経済的な目的で密かにサイバー諜報を行っている。
そうしたサイバー攻撃の犯人を特定するのは難しい場合が多いが、例外もある。例えば、いわゆるハクティビストは、政治的、宗教的、社会的な目的でウェブサイトの改ざんやその他の攻撃を行い、自ら犯行声明を出す。
この10年間のハクティビズムは、匿名の集団である「アノニマス」や、そこから分派した「ラルズセック(LulzSec)」と結び付けて語られることが多かった。これらの集団はさまざまな社会運動と日和見的に連携し、抗議活動を路上からデジタルの世界に広げた。
これらのグループは、主に世界中の匿名のメンバーで構成されており、攻撃の手段には、ウェブサイトの改ざんや、分散型サービス妨害(DDoS)攻撃、個人情報の暴露などを利用することが多い。こうした目的に利用できるツールは簡単かつ安価に入手可能で、高度な技術を持つブラックハットハッカーから、技術力が低いスクリプトキディーまで誰でも利用できる。
ただし、一般市民のオンラインアカウントやデータが攻撃対象になり、巻き添え被害に遭う場合もある。
2020年には、ハクティビズムによるインシデントは全体的に減少したように見える。しかし、George Floyed氏が亡くなって「ブラックライブズマター」運動が盛んになると、アノニマスのソーシャルメディアアカウントに数百万人のフォロワーが集まったことでも分かる通り、社会的不公正や社会の声が無視されていると感じられると、ハクティビズムのような活動に対する支持が水面下で生まれる可能性がある。
米国時間9月30日に学術誌「Group Processes & Intergroup Relations」に掲載された論文「"If they don't listen to us, they deserve it": The effect of external efficacy and anger on the perceived legitimacy of hacking」(「自分の耳を貸さない権力者が被害に遭うのはいい気味だ」:外的政治的有効性感覚と怒りがハッキングに対する認知的正当性に及ぼす効果)では、社会システムにおける失望が、ハクティビズムに対する見方をどう変化させ、ハクティビズムへの支持にどんな影響を与えるかを検証している。