企業セキュリティの歩き方

機動戦士ガンダムで例えるゼロトラストセキュリティの必要性--前編

武田一城

2020-12-18 06:00

 本連載「企業セキュリティの歩き方」では、セキュリティ業界を取り巻く現状や課題、問題点をひもときながら、サイバーセキュリティを向上させていくための視点やヒントを提示する。

 今回は、近年話題となっている「ゼロトラストセキュリティ」というセキュリティ対策の概念や仕組みがなぜ必要かという点を説明したい。ゼロトラストは、これまでのセキュリティ対策の概念と根本的に異なる点や、ベンダーによるミスリードもあって非常に分かりにくいものになってしまった感がある。ただし、これからの脅威に対して必要不可欠なものでもある。そこで、企業や組織で中核を担う世代やITにそれほど詳しくない方にも理解していただけるよう、アニメ「機動戦士ガンダム」によるたとえ話で解説する。少しでも身近に感じていただければ幸いだ。

赤い彗星のシャアとその乗機の数々

 シャア・アズナブル(以下シャア)は、機動戦士ガンダムに登場する最も有名な人物の一人である。ガンダムの主人公で地球連邦軍に所属するアムロ・レイ(以下アムロ)のライバルであり、敵となるジオン公国の軍に所属する将校でありながら、モビルスーツ(以下MS)を使った戦闘において圧倒的なエースパイロットでもあり、人々を引きつける個性を持ち、多くの名言なども残している。そのため、ガンダムなどのロボットアニメを知らない人でも「赤い彗(すい)星」という異名を知っている人も多い。

 ガンダムでは、人型兵器のMSによる白熱の戦闘シーンが数多く見られるが、このアニメの世界観においての最強兵器である。舞台となる地球および地球に比較的近い太陽系の宇宙空間において、MSによる戦闘の結果は戦争(地球連邦軍vsジオン公国軍)全体の行方を決する非常に大きな戦略的な要素となる。

 このアニメでは、主人公のアムロが第1回から最終回(43話)までの全てにおいてタイトルでもあるMSの「ガンダム(形式「RX-78-2」)」を乗機としている。それに対してシャアは、「ザクII(MS-06S)」「ズゴック(MSM-07S)」「ゲルググ(MS-14S)」、そして物語の最期にガンダムと壮絶な相打ちとなる「ジオング(MSN-02)」と、4台ものMSを乗り継いでいる。

勝利のために必要な「敵の強さに合わせた対応」

 戦争や戦闘には必ず相手がいる。その相手が強いか弱いかで、必要な兵器の性能やパイロットの訓練、戦術思想などが大きく異なる。つまり敵が弱いと、工夫や努力、大きな負担となる新兵器開発のための技術開発などの投資はあまり必要ないが、敵が強いと、それらを複合的に組み合わせて戦略的に実行しなければ勝利を得られない。

 そのため、シャアの乗機でザクIIが最強(かつ、この世界で唯一)のMSであり続けたなら、何度も乗り換える必要がなかった。ジオン公国軍は、ザクIIだけを量産するか、せいぜい「ドム(MS-09)」や「リックドム(MS-09R-2)」などアニメの序盤から中盤に登場するMSを量産し続けることで勝利を得ることができただろう。しかし、第1回からガンダムという強い敵に遭遇してしまった。

 ガンダムが強い理由は、登場当時からザクを上回る圧倒的な性能に加え、アムロの「ニュータイプ」能力(宇宙空間に進出した人類が共感性などの能力を高めていくというガンダム独自の進化論)の覚醒という予想外の要素の相乗効果もあったと思われる。また、このアニメの時間軸において極めて短期間にものすごい勢いで兵器自体の性能が向上したという要素も非常に大きいだろう。ガンダムで描かれる戦争は「1年戦争」と呼ばれ、比較的短い期間の戦闘だった。その中で新兵器のMSの量産が行われ、さらに量産には向かないものの大型で戦闘力の高い試作的なものも含めた「モビルアーマー(MA。人型のMSとは異なり戦闘機のように機動性を重視した形状の兵器」」などの開発が行われた。

 その結果、シャアの乗機はもちろん、それ以外にも次々と高性能なMS(水中や地球の陸戦などの特殊用途のMSもあった)が開発された。これは多少ガンダムの性能を過大評価した点は否めないものの、ジオン軍が敵の戦力を評価し、それに打ち勝つための試行錯誤を続けた結果と言って良いだろう。エースパイロットのシャアもその流れに沿って、戦闘での勝率を上げるための当然の選択として次々と乗機を乗り換えたのだろう。

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