山谷剛史の「中国ビジネス四方山話」

EV普及を進める中国にバッテリー回収の壁

山谷剛史

2021-04-21 07:00

 中国は電気自動車(EV)の普及を進めていて、複数の国産EVメーカーが台頭してきたほか、バスやタクシーなどの事業用自動車をEVに置き換えた深センなどの自治体もある。

 EVが普及し始めて数年が経過しているが、数年利用したリチウムバッテリーはそろそろ交換のタイミングでリサイクルが必要になる。しかも、バッテリーの廃棄量は年々増えていく。調査データによれば、2020年までにリチウム電池の総廃棄量は42万トンになると見込まれている。そのうち、EV用のリチウム電池は21万トンを占める。

 中国政府もこうした事態は予測していて、2015年には「EV用の廃蓄電池を包括的に利用するための業界標準条件(新能源汽車廃旧動力蓄電池綜合利用行業規範条件)」「EVのパワーバッテリーリサイクル技術方針(電動汽車動力蓄電池回収利用技術政策)」、2016年には「拡大生産者責任システムの実施計画(生産者責任延伸制度推行方案)」、2017年には「EV用バッテリーの回収と利用管理のための暫定措置(新能源汽車動力蓄電池回収利用管理暫行方法)」、2018年には「EV用バッテリーの回収と利用のトレーサビリティー管理に関する暫定規定(新能源汽車動力蓄電池回収利用遡源管理暫行規定)」を発表し、着々と対策を進めている。とはいえ、バッテリー規格の標準化もリサイクルの技術標準も定められておらず、まだまだルール作りが必要だと各種メディアは論じている。

 またリサイクル業界では、将来の巨大市場目当てに、リサイクル専業企業の格林美(GEM)が中国国内外の企業と提携したり、中国全土に回収拠点を展開したりしているほか、中国の電池メーカーである寧徳時代や南都電源、電池材料メーカーなどがそれぞれリサイクル専業企業を立ち上げている。自動車会社や正規販売店もリサイクル業務を行っている。

 法整備やルール作りをしても、その網の目をくぐって不正を働く業者がいるのが中国ではよくあること。買取価格が高価なリチウムバッテリーなどの各種電池を回収する非正規のリサイクル業者が既に多数確認されている。なにせ貧富の差が大きいことで所得の低い配送員を活用できる中国だ。これまでも正規のリサイクル業者より安価な労働力を使ってバッテリーを回収し、人力で解体して必要な金属を集める非正規のリサイクル業者が多数登場している。

 さらに、バッテリーの回収処理で財力をつけ、非正規のバッテリー回収業をより大規模に展開する者もいる。少々前だが、2018年に逮捕された別名「電池王」と呼ばれた北京の王氏は、もともと使用済み乾電池の買取販売をしていたが、その後、自動車のバッテリーリサイクル企業を立ち上げた。

 通常の相場よりずっと高い価格で使用済みバッテリーを回収し、北京市内の自社倉庫に一時保管しておく。そして、ある程度溜まった段階で、北部の内モンゴル自治区にある自社の処理場に向けてトラックで運ぶ仕組みになっている。輸送トラックが目撃されたり、追跡されたりしていないか慎重に行動しつつ、草原の中にある処理場に搬入して分解作業を行う。

 王氏はリサイクル業の資格を有していなかったが、自動車用の中古バッテリーを引き取り、自社工場で鉛を精錬した。しかし、その施設は環境対応が不十分で、草原に重金属が多く流れ出し、土壌を汚染させた。

 この「電池王事件」は最たるものだが、非正規のバッテリー回収について調べると、この手の話は現在に至るまで中国全土で発生していることが分かる。中小の非正規業者が台頭するのは中国のさまざまな業界であることだ。一方で、正規のバッテリーリサイクルが現状でそれほど進んでない背景として、「儲からない」「政府による補助金が不十分」「ちゃんと回収しようとすると設備投資に金がかかる」という問題が出ている。バッテリーに限らず、あらゆる製品ジャンルで違法回収業者が存在していることから、将来的にバッテリーの違法業者を根絶できるとは考えにくい。

 EVの普及によって回収が必要なバッテリーの量は年々増えている。貧富の差が激しい中国では、非正規のリサイクル業者が安い人材でバッテリーを回収・分解し、環境を汚染している。この状況を打開するため、中国はどのような一手を打つのか注目だ。

山谷剛史(やまや・たけし)
フリーランスライター
2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。

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