量子コンピューティングがもたらす将来のビジネス変革--日本IBMが戦略を提示

渡邉利和

2021-09-22 10:33

 日本IBMは9月21日、企業経営層向けの戦略レポート「The Quantum Decade 日本語版」を公開した。これは、量子コンピューティングがもたらす将来のビジネス変革に備える戦略を提示するものになる。

日本IBM IBM Quantum Industry and Technical Services(QI&TS) Japan Leadの西林泰如氏(左)、同Japan Subleaderの橋本光弘氏
日本IBM IBM Quantum Industry and Technical Services(QI&TS) Japan Leadの西林泰如氏(左)、同Japan Subleaderの橋本光弘氏

 日本語版の翻訳監修メンバーで、同社 IBM Quantum Industry and Technical Services(QI&TS)のJapan Leadを務める西林泰如氏は、同社の量子コンピューティングに関する取り組みについて「技術開発の活動と平行しながら、お客さまや市場を作っていく活動が本格化している」と紹介、「来たるべき量子コンピューティングの時代に向けて、この極めて先進的な技術をどうビジネスにつなげていくのかを案内できれば」と語った。

 The Quantum Decade日本語版は100ページを超えるレポートとなっており、大きくは「第1章:量子に関する認識と発見の時代」「第2章:量子の時代への準備と実験の威力」「第3章:量子優位性とビジネス価値の追求」に、「業界別ガイド」を加えた構成となっている。同氏は「量子コンピューティングの本質を理解していく/捉えていくという点と、その現在地を適切に認識してもらうとともに、それらを将来的に活用したビジネス上の価値や優位性、道筋などをガイドするような構成になっている」とした。

Quantum Decadeが示す特徴
Quantum Decadeが示す特徴

 続いて西林氏は、キーメッセージとして「今後のDecade(10年間)を見通してみると、2021年は非常に重要なターニングポイントにある」とした上で、量子コンピューティングを活用した優位性(Quantum Advantage)をビジネスに活用できる状態に至る(Quantum Ready)までの準備期間は限られていると指摘した。具体的にどのくらいかという点に関しては明確にされていないが、“decade(10年)”という言葉を使っていることからおおよそどのくらいの期間を想定しているかは推し量ることができるだろう。

 量子コンピューティングに関しては、2019年頃に「古典コンピューターの限界を超えた計算能力を示すこと」を意味する量子超越が話題になるなど、現在のスーパーコンピューターを超える演算能力を実現することで置き換えていくイメージもあったが、同氏が強調したのは「三位一体のテクノロジー」という考え方だ。これは「ビット」(古典的な高性能コンピューターシステム)、「ニューロン」(AI〈人工知能〉システム)、「量子ビット」(量子システム)の3つのコンピューティング技術を組み合わせた相乗効果がコンピューティングの未来をけん引する、というものだ。つまり、量子コンピューターが既存のスーパーコンピューターに置き換わるということではなく、急速に発展しつつあるAI関連技術も合わせて適材適所の組み合わせで活用していく未来が想定されているということになる。

量子コンピューティングがもたらすビジネス価値は3つの段階で到来すると予想される
量子コンピューティングがもたらすビジネス価値は3つの段階で到来すると予想される

 西林氏はまた、レポートの第1章で語られている「認識(Awareness)」の意味するところについても説明した。AI技術の急速な発展もあって、現在は「分析の時代」と表現できる状況にあるが、これは過去のデータを分析することで知見を得ている形である。しかし、量子コンピューティングの時代にはより緻密に現実世界を再現できるモデルの構築やシミュレーションが可能になると期待され、そこから知見を発見する時代になると予想されている。

 データを収集し、それを分析するよりも迅速に知見を得られるようになることで「量子コンピューティングは、ビジネスや社会が直面する複雑な問題を素早く解決する」とされている。そして、現在の量子コンピューティングの進化のスピードが速いことも指摘し、「遅れると先行者に追いつくのは難しい」(同氏)という表現で今まさに準備に着手すべきタイミングになりつつあるのだという認識を示した。

量子コンピューティングの効果的な活用が見込まれる分野
量子コンピューティングの効果的な活用が見込まれる分野

 QI&TSでJapan Subleaderを務める橋本光弘氏は、QI&TSについて「お客さまの量子コンピューティング活用を支援するサービスビジネス開発部門」であり、量子コンピューティング活用のための新たなオファリングや、先端技術活用のためのコンサルティングサービスなどを提供すると説明。

 日本国内では、量子技術の社会実装を目指す産学官連携の協議会として既に量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII)や量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)が設立され、活動を開始している状況だ。QI&TSにはこうした国内の取り組みと連携し、支援していくことが期待される。

QI&TSの提供価値
QI&TSの提供価値

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