アイ・ティ・アール(ITR)は11月11日、国内企業を対象に実施している年次調査「国内IT投資動向調査」の最新結果を発表した。それによれば、2021年度のIT予算額を「増額」とした企業の割合が「減額」とした割合を25ポイント上回り、同社は「企業のIT投資がコロナ禍を乗り越え成長軌道を取り戻しつつある」と分析している。
この調査は2001年から実施しているもので、今回で21回目を数える。今回は8月20日~9月1日に国内企業のIT戦略やIT投資の意思決定に関与する役職者にウェブでアンケートを行い、2973人から有効回答を得た。
ビジネス成長へのIT投資が拡大
まず2021年度のIT予算額の増減(2020年度比)の傾向は、「横ばい」が55%で最も多く、「増加」は35%、「減額」は10%だった。前回2020年の調査時における2021年度予想では、「横ばい」が50%、「増額」が34%、「減額」が16%となっており、「減少」とする割合が低下したことが分かった。2022年度の予想では「増額」が36%、「横ばい」が54%、「減額」が9%で、引き続き増加基調が見込まれる。
出典:ITR「IT投資動向調査2022」
また、増減傾向を指数化した「IT投資インデックス」でも、2021年度の実績値が「2.28」となり、2020年度実績値の「1.93」や2021年度予想値の「1.72」を上回った。ただ、2022年度の予想値は「2.17」と、2021年度の実績値より下降しており、IT予算が大幅に増加するまでには至っていないとも予測している。
出典:ITR「IT投資動向調査2022」
IT戦略上で最重要視する課題の変化では、上位3つの「売上増大への直接的な貢献」「業務コストの削減」「顧客サービスの質的な向上」は前回と同じだった。順位が上がったものは、「システムの性能や信頼性の向上」「情報やデータの活用度の向上」「デジタル技術によるイノベーションの創出」「事業継続計画や災害対策の強化」「新技術に関する知識・活用ノウハウの獲得」「グローバル・ビジネスへの対応強化」で、既存・新規のビジネス成長に資するテーマや事業のIT基盤を強化するテーマが目立つ。順位が下がったものは、「ITコストの削減」「既存システムの統合性強化」「従業員の働き方改革」「プライバシーや機密情報の保護」「IT部門スタッフの人材育成」だった。
DXの取り組みは進展
デジタルトランスフォーメーション(DX)では、「全社レベルで取り組むべき最重要事項だと思う」とする回答が5ポイント増加した一方、「関心はあるが、重要だとは考えていない」「特に関心がない」はそれぞれ2ポイント減少しており、DXを重要事項と位置付ける企業の割合が増えている。
出典:ITR「IT投資動向調査2022」
DXを推進する部門の設置状況では、今回の調査で初めて設置率が7割を超えた(71%)。専任部門が推進する割合は、前回調査から5ポイント増加して23%に上る。部門横断型のプロジェクトチーム(タスクフォース)が推進する割合は3ポイント減の18%だった。最多は既存部門の掛け持ちの29%だったが、「専任部門の設置率上昇はDXの重要性の高まりを示す端的な指標」(ITR)としている。
また、今回の調査では16種類のDXテーマを挙げ、その進展状況などとDX推進体制との関係性も分析し、「DX実践度」として数値化した。その結果、DX実践度が70点以上(DXテーマの半分程度/大半で成果が上がっている段階)のケースでは、専任部門の設置率が半数以上を占めていた。
出典:ITR「IT投資動向調査2022」
コロナ禍でDXは加速
DXの取り組みにコロナ禍が与えた影響では、「大いに加速」が14%、「やや加速」が34%の合計48%で、「変わらない」の45%を上回った。また、先述のIT投資インデックスとの関係で見ると、コロナ禍でDXの取り組みが「大いに加速」「やや加速」と回答した企業ではIT投資インデックスが高く、「大いに加速」と「大いに減速」の差は11ポイント強だった。コロナ禍でDXの取り組みが加速している企業ほどIT予算を強化している様子が見て取れるとしている。
出典:ITR「IT投資動向調査2022」
投資意欲が高いのはIoTと電子契約
製品・サービス分野の2022年度に向けた投資額の増減と新規導入の可能性については、投資増減指数では「IoT」、新規導入の可能性では「電子契約/契約管理」がトップだった。上位の傾向としては、IoTと5G(第5世代移動体通信)による新規サービスの開発や提供、デジタルサービスによる業務改革、BI(ビジネスインテリジェンス)やAI(人工知能)などのデータ活用が目立っている。
出典:ITR「IT投資動向調査2022」
今回の結果についてシニア・アナリストの三浦竜樹氏は、「企業のDXへの取り組み状況が、IT戦略やIT投資、その成果に大きな影響を与えていることが明らかになり、特にDX推進組織の有無や組織が専任か兼任かによる明確な差も表われた」と解説。2021年度は、コロナ禍の在宅勤務対応としてオンライン会議ツールや電子契約・契約管理など社内業務改革を目的としたIT投資が拡大した一方、2022年度は5G、IoT、AI/機械学習プラットフォームなど、新規ビジネス目的やDXとの関連が強い領域へのIT投資が高まるだろう解説する。
今回の調査結果の詳細は、レポート「国内IT投資動向調査報告書2022」として同日から提供されている。