最高情報責任者(CIO)は、イノベーションと無価値な技術を見分ける責任を負っている。検討対象のシステムとサービスが非常に多いため、仮想通貨(暗号資産)が近い将来に自社のデジタルトランスフォーメーション戦略の重要な要素になる可能性は低いと感じているCIOもいる。
筆者が先日話を聞いた、あるITリーダーの例を紹介しよう。「人工知能のような他の分野で限界に挑んでいるが、『ビットコイン』やその他の仮想通貨は今のところ眼中にない」
クラウドを活用したコラボレーションの促進や、ビッグデータを利用した分析の実行のように、新興テクノロジーの使用は明確なビジネスケースと結び付いている場合が多いが、仮想通貨の最も明白な用途、すなわち商品やサービスの決済はまだ、ビットコインが登場した2009年に多くの観測筋が予測したほど広い範囲では採用されていない。
推計では、全世界で約1万5000社がビットコインを受け入れており、そのうち約2300社が米国で事業を展開しているとされる。印象的に思える数字だが、多くの優良企業はまだ仮想通貨を決済手段として受け入れていないという点にも留意しておきたい。
Microsoftはユーザーがサービスの利用料金をビットコインで支払うことを認めており、レジャー、旅行、食品業界の企業(Starbucks、Pavilion Hotels & Resorts、airBalticなど)には仮想通貨の評価試験を幅広い分野で進めているところもあるが、大手ブランドの多くは仮想通貨の採用に二の足を踏んでいる。
では、このようにためらう理由は何なのだろうか。1つの問題は、仮想通貨の価格の変動が激しいことだ。多くの場合、変動の原因は仮想通貨の取引方法にあると考えられており、その価値は市場参加者が支払ってもいいと考える金額によって決まる。
この変動性のために、経営者が仮想通貨に実践的なアプローチをとるのが難しくなっている。最高財務責任者(CFO)は価値が激しく上下する可能性のある資産を貸借対照表に計上するのに慎重であることが、調査結果からうかがえる。アナリスト企業Gartnerによると、84%ものCFOが、ビットコインは本質的に変動性が高く、保有によって財務リスクが生じると考えているという。
大企業がちゅうちょするもう1つの理由は、仮想通貨の種類の多さだ。デジタル通貨の未来がどんなものになるのか、現時点で確かなことは誰にも分からない。ビットコインは最も有名なデジタルトークンだが、注目されている仮想通貨は決してビットコインだけではなく、アナリスト企業Forresterは、現在のところ約7000種類の仮想通貨があると推定している。
インターネットの短い歴史は、初期の成功が長期的な勝利を保証するものではないことを示している。投資銀行のUBSは、NetscapeとMyspaceが最終的に王座を追われたように、ビットコインなどの人気仮想通貨も、より優れた設計の仮想通貨に取って代わられる可能性がある、と警告する。
UBSはまた、規制環境が厳しくなるにつれて、仮想通貨の価値が突然下落する可能性があるとして注意を促している。2021年、中国の中央銀行はあらゆる仮想通貨取引を違法化すると発表し、ビットコインなどのデジタルトークンを事実上禁止した。
完全な匿名性と法律の影響を受けない点が、仮想通貨のこれまでの発展における中心的な要素だったが、資産運用会社のAmundiは、G7の規制当局がこのエコシステムを規制する意向を固めたと指摘している。同社によると、この規制はビットコインのような通貨の価格の調整につながる見込みで、その影響は厳しいものになる可能性があるという。
さらに、通貨のマイニングには莫大なエネルギーが必要で、環境への影響が強く懸念されており(全世界におけるビットコインのマイニングによって1年間に消費される電力はアルゼンチン全体の消費電力を上回ると推定されている)、これを考慮すると、リスクを嫌う一部の企業幹部がなぜ仮想通貨の採用に慎重になっているかが分かるだろう。