マルチクラウドが大きなテーマとなったDell Technologiesの年次イベント「Dell Technologies World」2日目(5月3日)の基調講演には、「カスタマーゼロ」として同社の最新技術を用いる同社IT部門の取り組みが明らかになった。それまで同社の開発者が開発業務に割いていた時間は20%だったが、セルフサービスや自動化の導入で75%に高めることができたという。
登場した副会長兼共同最高執行責任者(CO-COO)のJeff Clarke氏は、コロナ禍を振り返りながら、「どこかの段階でニューノーマルが始まった。ハイブリッドワーク、ハイブリッドの学び、ハイブリッドのコマース(商取引)などが新しい当たり前になり、これがわれわれのシステムとオペレーション環境に影響を与えている」と話す。変革のスピードは加速しており、「現状が何であれ、ディスラプト(破壊)され、われわれの行動やビジネスは様変わりする」とClarke氏は続ける。
Dell Technologies 最高デジタル責任者兼最高情報責任者のJen Felch氏
IT部門は、新しいビジネス、新しい社員の働き方をサポートしなければならない。同社内のITとDellのECサイトを受け持つ「Dell Digital」を率いる最高デジタル責任者(CDO)兼最高情報責任者(CIO)のJen Felch氏は、「開発者はソリューションを構築するだけではなく、アプリケーションをリファクタリングし、ワークロードを動かしている。ITだけではなくDell全体にとっても、変革に重要な存在だ」と語る。その開発者に、いかにしてさらなる機能やキャパシティーを提供し、変革を進めてもらうかが重要な課題だ。ところが、「業務のうちソフトウェアを作成しているのは20%。残りは開発に関係ない会議や管理などの業務に充てていた」という。
それが現在は、75%の時間を開発に充てられるようになった。どうやったのか――Felch氏がこの2~3年間を振り返った。
まず、コロナ禍でチームを在宅にし、必要な環境を用意するのと同時に、セルフサービスの機能を提供した。「ITのモダン化、ソフトウェア定義データセンターを実現した後、開発者の体験と生産性を向上するためには、インフラのセルフサービスが重要だった」とFelch氏。
開発者が自分でインフラを立ち上げられるために、VMwareの「vSphere」「NSX」「Tanzu」などの技術を使い、仮想マシン、ネットワーク、コンテナーのプロビジョニングの自動化を進めた。すると、「開発チームとインフラチームのシナジーが出始めた」(Felch氏)という。開発チームは、ワークロードをモダンなインフラに動かし、数分でインフラをプロビジョニングできる。
継続的なインテグレーションとデリバリー(CI/CD)を通じて、パイプラインの標準化と自動化を進めた。これは、コードの実装スピードを高速化しただけでなく、コストの透明性ももたらした。「サービスのコスト、レガシーアプリケーションが消費するコストが分かるようになり、レガシーアプリケーションを引退させるという意思決定につながった」(同)という。
Dell Digitalは、さらにAPIファーストのアプローチを進め、開発者向けのユーザーインターフェース、サービスのマーケットプレイスなどの機能を備えるワンストップショップ「Dell Digital Cloud」を構築した。これにより、開発者とデータサイエンスチームが完全にセルフサービス形式でインフラを利用できるようになった。
これらの取り組みと平行して、セキュリティ対策を見直した。
このようにして開発プロセスの変革を進めた結果、新しい機能を実装するサイクルタイムは50%短縮され、アウトプットは75%増加した。隔離空間を実装することで脆弱性は90%以上削減できたという。
「3年前はCI/CDパイプラインで動くパイプラインは300万だったのが、2021年には2100万件に。7万以上のコンテナーがあり、3万以上のKubernetes Podsが動いている」とFelch氏はいい。「マルチクラウド環境を活用することで、柔軟性を得られた」と述べた。
Felch氏が何よりも喜ぶのは、人に投資できるようになったことだという。「単に新しいスキルを獲得するだけでなく、実際にそれを使ってもらう環境が整った」(同)。
Clarke氏は、「ソフトウェア開発者は簡単にアクセスできるインフラを求めている。開発者のマインドセットを持って開発者が開発に専念できるようにする必要がある」と述べ、Dellがイベント中に発表したマルチクラウドはそれを支援するとした。