ロシア軍は、過去1年にわたってウクライナに甚大な被害を与えてきている。軍の死傷者数は十万人を超え、建物被害も膨大な金額に上っている。また、世界の政治的均衡も大きく様変わりしている。
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻開始から1年が経過したものの、まだ終わる気配は見えていない。
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ただ不思議なことに、全面的なサイバー戦争はまだ勃発していない。
ウクライナに対するサイバー攻撃はこれまでにも発生しており、ウクライナを支持する国々に対しても政治活動の妨害やディスインフォメーションといったキャンペーンが実行に移されている。しかし、軍事侵攻が2年目に突入した現在でも、一部の専門家が予測していたようなサイバー界でのアルマゲドン(最終戦争)は発生していない。
これは、従来の見識や予想に反している。軍事侵攻前のウクライナに対する、ロシアによるものとされるサイバー攻撃は、同国の病院をはじめとする基幹インフラへの電力供給を絶つような、電力網の停止を狙ったものだった。過去のマルウェア攻撃では一部のシステムが停止に追い込まれただけでなく、ウクライナの国境を越えた地域の企業にも影響が及んだ。
ウクライナの厳冬のさなかに電気や暖房を失うことは、生死を分ける問題に直結する。しかし侵攻が始まって以来、電力網に対する全面攻撃は少なくとも今のところ発生していない。そうではなくロシアは、ミサイル攻撃や歩兵による陸上戦闘といった、従来型の戦争手段に力を入れている。こうした戦闘形態は悲惨かつ死と隣合わせであるとはいえ、被害をウクライナ国内にとどめる結果になっている。
デジタル戦争においては、傍若無人な攻撃で国際法を堂々と破っているロシアでさえも慎重にならざるを得ないという点を、大規模な攻撃が遂行されていない事実が如実に物語っている。観測筋によると、ロシアとウクライナはいずれも、世界的な大規模サイバー戦争によって米国のような大国を直接巻き込むというリスクを冒したくないと考えているのではないかという。
とは言うものの、全面的なサイバー戦争や、それによってもたらされる破壊の脅威は依然として大きな影を落としている。
バージニア州選出の民主党上院議員であるMark Warner氏は、1月に開催された「CES 2023」における米CNETとのインタビューで、「インテリジェンスコミュニティー(IC)の高官と話をすれば、破壊的な攻撃が実行に移されていないのは、ちょっとした驚きだと言うはずだ」と述べた。