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アベノミクス相場の障害を超えネット証券の次フェーズに挑む--SBI証券の髙村社長

大西高弘 (NO BUDGET) 怒賀新也 (編集部)

2014-06-19 07:30

情報システムがビジネスの成否に直結

 大手5強と言われるネット証券の世界では、手数料を含めたし烈な競争が続いている。今回取材したSBI証券は、290万口座の顧客を抱え、ネット証券では首位、東京証券取引所におけるシェア比較でも約35%とかなりの比率を占めている。

 2013年3月から同社の代表取締役社長を務めている髙村正人氏は、1969年生まれの45歳。都市銀行出身で、2005年にSBI証券に入社した。

SBI証券の代表取締役社長、髙村正人氏
SBI証券の代表取締役社長、髙村正人氏

 厳しい競争環境の中にある各ネット証券にとって、さまざまな商品の売買を司る情報システムはまさしく経営の根幹を担う。当然だが、ネット証券企業にとって、システムは他の業界よりもはるかに経営そのものへの影響度が強い。障害が起きて機能停止になるのはもちろん、アクセススピードが少し落ちるだけても業績に悪影響が及ぶ。

 「顧客は厳しい競争の中でも適正にシステム投資をすることを求めている。スムーズにアクセスでき、操作性の高いシステムがいつでも利用できる環境を提供しなくてはならない」と髙村氏は語る。

アベノミクス相場で起きたシステム障害

 2013年、多くのネット証券企業のシステムで障害が発生したことがあった。“アベノミクス相場”と呼ばれる急激な円安による沸騰相場の影響である。SBI証券でも、サイトにつながりにくい、システム停止といった障害が起きた。

 「大変ご迷惑をおかけしましたが、これは、想定をはるかに超えるトランザクションが発生したことで、ファイアウォールが“サイバー攻撃を受けている”と判断してしまったことが主な原因でした。その後、システムを大幅に改善しました」

 システムのネットワーク障害が原因だった。SBI証券は、ファイアウォールやロードバランサを予定を早めてバージョンアップし、さらにネットワークの入り口を増加させて対応した。

 取引のトランザクションを処理するデータベースサーバの稼働環境として、Oracleの垂直統合型システム「Exadata」を数年前に導入するなど、大量の注文に対応できる体制は整えていたものの、2013年の障害はまったく別の場所に起こった問題だったわけだ。

 「ファイアウォールもロードバランサも最高のスペックを持つ製品を導入していた。それでも、現実には障害は起こってしまった。運用も含めたシステム全体の改善には、“これで問題なし”ということはない。常に進化させることを考えていかないとビジネスそのものが立ち行かなくなってしまう」(髙村氏)

AWS活用でバランスの取れたシステムを構築

 システム改善の中で、SBI証券が最近取り組んだのはパブリッククラウドの活用だ。

 実は、トランザクション全体の3分の2は株式の価格情報の閲覧などを目的にしたもの。したがって、重要な個人情報を含んだ実際の取引データとは切り離すことが可能だ。そこで、これらのトランザクションをパブリッククラウドである「Amazon Web Services」上で処理し、システムの負担を軽減させるよう決断した。

 「障害の起きない堅牢なシステムをバランス良く、合理的に構築していくことが大切です。もともと当社は会社発足当初、米国のシステムを活用することから始まって、少しずつ改善を重ねてきました。余計な負担をできるだけ避けて、バランスを保ちながらシステムを育てていこうとしています」

 こう語る髙村氏は、今後、追加を繰り返して整理がされていないシステムの一部を改善するために、システムプラットフォームをさらに充実させて、顧客ニーズに即応できるシステム環境を構築することを目指していると話す。

 「当社のシステム部門は約100人のスタッフが在籍していますが、今後もシステム環境の充実を図るべく、人材はどんどん投入していきたいと考えています」

 バランスの取れたシステム環境を構築することは、顧客へのサービスの充実に素早く対応する能力も高めるが、一方で、コスト負担の軽減にも大きく貢献する。

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