活発化するエンタープライズ向けクラウドコンピューティング

文:Dion Hinchcliffe(Special to ZDNet.com) 翻訳校正:村上雅章・野崎裕子

2008-09-08 08:00

 膨大な数のハードウェアとソフトウェアが稼働する巨大なデータセンターを計画的に増強していくという時代が過去のものとなったというわけではない--少なくとも今のところは。しかし、そういったデータセンターの最終的な変革と、ダウンサイジングに向けた素地は、最近注目度が高まっている「クラウドコンピューティング」という形態で着々とできあがりつつある。ネットワークをベースとするこのコンピューティングモデルによって、従来からあるIT機能の多くは、ネットワーク上で提供されているサードパーティのサービスへと移管されることになるのだ。

 IT業界は2008年に入り、クラウドコンピューティングによって実現できることに対する期待を膨らませている。その主な理由は2つだ。まず1つ目は、クラウドコンピューティングの利用によって、コストの削減と革新の推進を戦略的に行うことが可能になるという点が広く認識されるようになってきたという理由である。そして2つ目は、現時点で提供されているものが、エンタープライズ環境における基幹業務で利用可能なレベルに限りなく近付いてきているという理由である。

 2008年4月にインターネット界における巨人であるGoogleがクラウドコンピューティングの分野に参入した(「Comparing Amazon’s and Google’s Platform-as-a-Service (PaaS) Offerings」)ことで、この分野は一気にIT業界の注目を集めるようになった。とは言うものの、AmazonSun Microsystemsのような大手ベンダーだけではなく、3TeraEgeneraといったより規模の小さなベンダーも、かなり前からパイオニアとしてこの分野に参入していた。

 また、7月末にOm Malik氏が執筆した記事(英文)にもあるように、IBMやDell、HP、Intel、Yahooをはじめとする他の大手IT企業も、こぞってクラウドコンピューティングのリサーチや主要インフラに対して大きな投資を行っている。さらに、ZDNetのMary Jo Foleyも、Microsoftの「Midori」プロジェクトにおけるクラウドコンピューティングへの取り組みに関する記事(英文)を同月に執筆している。

 Googleのクラウドコンピューティング市場への参入によって、これほどまで大きな変化が訪れたのはなぜだろうか?それはおそらく、Googleの参入によって、順調に伸びてきていたものの主流になるほどではなかったこの市場が臨界点に達したためであろう。Googleは、消費電力からネットワーク帯域幅、ストレージ容量、処理能力にいたるすべての面においてコストと効率(「Google’s warehouse-size power problem」)をうまくコントロールしながら、何百万人というユーザーからの要求を並列処理して信頼性の高いサービスを提供するという地球規模のスケーラビリティの高さを備えたアプリケーションで高い評価を得ている。このため同社が、「(今や誰でも)Googleのインフラ上でスケーラビリティの高いウェブアプリケーションを構築できるようになった」と発表したことで、大きな注目を浴びたというわけである。

クラウドコンピューティング:革新を進めるとともに効率を向上させる

 情報テクノロジの高いコストを抑制しながら、革新的な新たなソリューションを生み出して業務を改善するという2つの難題は、現代のIT業界において対立する問題となることがしばしばある。企業はコストを抑制して競争力を維持する一方で、顧客の心をつかむ新たな製品やサービスを提供するための新しいアイデアに投資しなければならないのだ。

 こういった2つの問題が対立する理由は、一般的に(R&Dなどへの)新規投資による革新的な成果が要求される一方で、前年よりも低いコストで同じサービスを提供することが要求されるためである。企業はムーアの法則やアウトソーシング、年々向上する生産性といった傾向を見たうえで、コスト削減が可能であると判断するのである。

 興味深いことに、クラウドコンピューティングは、このような対立する問題に対して特にその強みを発揮するのである。クラウドコンピューティングは、社外のイノベーションとイノベーションを生み出す能力(「Everyone as Co-Creators: Harnessing Collective Innovation with Web 2.0」)の双方に直接的かつ即座にアクセスできる手段を提供するとともに、コンピューティングやストレージ、アプリケーション間を縦断するより効率の高いIT機能にアクセスできる手段も提供している。こうすることでクラウドコンピューティングは、現代のIT部門が直面している2つの大きな難問を解決するための、再利用可能かつスケーラビリティのあるリソースを必要に応じて提供できるのである。では次に、自社で内製するという従来のコンピューティングでは解決が困難であったこういった問題を解決するために、クラウドコンピューティングがどのように役立つのかについて見ていきたい。

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