「第5回インターナショナルGPLv3カンファレンス」が11月21日、開幕した。これは、フリーソフトウェアのライセンス形態である「GPL(GNU General Public License)」について話し合う2日がかりのカンファレンスだ。今回の議題の中心は、まもなくドラフト第3版ができる同ライセンスのバージョン3(v3)について。初日の21日は、フリーソフトウェアの提唱者でGPLの生みの親でもあるRichard Stallman氏が講演を行った。
Stallman氏は講演の冒頭、「GPLバージョン2(v2)でも、GPLv3でもGPLの基本精神にはなんら変わりはない」と強調した。
変化し続ける世の中で、GPLv2の問題点もわかってきた。GPLv3では、「そうした問題点へのディテール的な対処」を加えたものだという。変更内容はいくつかのパターンに集約できる。
「まず一つはより良い国際対応だ」(Stallman氏)。現行のGPLv2も国際的ライセンス規約ではあるが、英語のライセンス原文を他国語に翻訳した際に、「Distribution」や「Convey」といった一部の語の定義が曖昧になることがわかった。GPLv3では、これらに代わる言葉を用意したうえで、個々の言葉の定義も明確にしている。
二つ目は「他のライセンスとの互換性」だ。「1990年代初めには、フリーソフトウェアのライセンスといっても、GPL以外にはX11ライセンスくらいしかなかった。(中略)しかし、1999年、Mozillaの登場を機に多くのフリーソフトウェアのライセンスが登場したが、それらの多くはGPLとは相容れないライセンスだった」(Stallman氏)。
GPLv3では、こうしたライセンスのうち、特にウェブサーバ「Apache」のライセンスと統合開発環境「Eclipse」のライセンスとの互換性に配慮する。
もう一つの重要な変更は、Stallman氏が「Tivo-lization(ティーボ・ライゼーション)」と呼ぶ、「自由への新しい障壁」に対処することだ。
TiVOは米国で人気のハードディスクレコーダ。Linuxで動作している同製品だが、ユーザーが改変したソフト(いわゆるハック)をインストールしようとしても、これを受け付けない。「ユーザーが購入した製品を好きな形で使う『自由』を妨げている」(Stallman氏)という。同様の例はTiVo以外にも見つかる。Microsoftは、同社製ソフトしか解読できない暗号技術をWindows Vistaで採用する可能性がある。
Stallman氏はこうしたトレンドを「Treacherous Computing(不誠実なコンピューティング)」と呼び、「公共の自由を束縛しようとする企業の陰謀」であり「極めて危険なトレンド」と指摘。日米の政府が、こうした企業の陰謀から民主主義的な個人の自由を守るどころか、むしろ企業の陰謀を応援していると厳しく批判した。
ただし、Stallman氏は、大手企業が過剰な著作権保護のために活用しているDRM(Digital Rights Managements)技術そのものに対しては否定的ではない。
「実際、GPLの技術を用いてつくられたDRMもある。われわれはDRMを作ることに対して反対するつもりはないが、ユーザーが後から、このDRMを解除するプログラムを作り利用する自由は守りたいと考えている」(Stallman氏)
またStallman氏は「ソフトウェア特許も大きな脅威だ」と語る。2年前に行われたある調査では、Linuxのカーネルは283のソフトウェア特許を侵害していることがわかった。「今数え直したら数はさらに増えているだろう。大きなプログラムは大抵、数百のソフトウェア特許を侵害しているものだ」(Stallman氏)。
GPLv2は米国では、開発者をこうした特許問題から救うライセンスとして機能したが、その他の国ではこれが機能しなかった。GPLv3では、Mozillaのライセンスを参考に、こうした問題に対処した。
ただし、こうした対策でも、まだ不十分であることが、最近わかった。Stallman氏は「NovellとMicrosoftの提携」が「ソフトウェア特許濫用の新たな可能性を示した」という。
このライセンスの下では、例えばある会社が、Microsoftに対して特許使用料を支払って庇護を求めても、その会社自体は守られても、その会社が提供するソフトの利用者まで庇護することはできない、という。
Stallman氏は、この問題がGPLv3のドラフト段階で浮上したのは幸運なことであり、最終版ではこうしたことも考慮にいれたいと語った。
GPLv3では、この他、明確な罰則規定なども設けられるという。講演の後に行われた質疑応答では、Stallman氏が「われわれの活動をオープンソースの活動と一緒にしないでほしい。オープンソースは、道義的問題など、より深遠な問題から目を背けるために、開発システムなどに焦点を向けさせたものであり、われわれの社会的な活動とは異なるもの」と興奮気味に語る一幕やフリーソフトウェアに近い思想が、料理のレシピや辞書(Wikipedia)など、ソフトウェア以外にも広まっていることなどにも触れた。
なお、講演の模様は同カンファレンスのウェブサイトを通してストリーミング中継された。主催者の特定非営利活動法人フリーソフトウェアイニシアティブは今後、録画した講演を再度、放映できるように準備を進めいるという。