Microsoft主催の学生技術コンテスト「Imagine Cup 2010」のソフトウェアデザイン部門に日本代表として参加した石村脩氏、関川柊氏、永野泰爾氏、金井仁弘氏の4人が、筑波大学附属駒場高等学校 パーソナルコンピュータ研究部(通称「パ研」)の顧問である市川道和氏にImagine Cupへの参戦を打ち明けたのは「事後報告」だった。
Imagine Cupでは、各チームをサポートするメンターを登録することになっている。そのメンターとして、市川氏を登録したというのだ。思いがけない申し出にとまどいつつも、市川氏は彼らのメンターとして日本大会、そして世界大会への彼らの挑戦をサポートすることになった。
「PAKEN」というチーム名で世界大会に挑んだ4名は、日本大会で優勝する以前からエリート高校生だった。筑波大学附属駒場高等学校(筑駒)という、東京大学合格者ランキングで常に上位に入る進学校に通い、数々のコンテストで優秀な成績を残しているパ研に所属しているのだ。2008年のImagine Cupパリ大会アルゴリズム部門で世界第3位という好成績を残した高橋直大氏も、このパ研出身だ。
そんな彼らのことだから、「目指すは優勝」という大胆な発言も本気だったのだろう。4人の優秀さと熱心さを一番よく知る市川氏も、「実は負けるとは思っていなかった。1回戦の結果発表で後半になっても日本が呼ばれなかった時、頭から血の気が引くのがわかった。その時初めて、PAKENにも負ける可能性があるのだと気がついた」と言う。
Imagine Cupという大会をメンターの立場で体験した市川氏だが、「自分の中に、これほど人のことで泣ける感情が残っているとは思わなかった」というほど、1回戦敗退のショックは大きかったという。「31年間の教師生活の中で、おそらくこれが一番大きな仕事だった。結果は1回戦敗退となったものの、自分にできることはすべてやった。やり残したことはない」(市川氏)
学生の成長が「見えた」
「教師の仕事で一番気になるのは子どもたちの成長だが、実際にその成長を目にすることはあまりない。それが今回は、日本大会に参戦すると決めてから世界大会に至るまでの約半年で、4人は激変した。ここまでの変化に触れたのは初めてで、教師冥利に尽きる」(市川氏)
市川氏によると、PAKENのメンバーはエリートではありながらも、半年前までは「普通の高校生だった」という。それぞれのメンバーの成長について、市川氏は次のように言う。
スーパー中学生としてすでに高く評価されていた金井氏は、「(Imagine Cupに向けて)本当に努力していた」という。同時に、「あれほどこのプロジェクトに力を入れていたにもかかわらず、学業がおろそかになることは全くなかった。本当に信念を持ってやっていたのだろう。このことは彼を大きく成長させた」と市川氏は分析する。
関川氏については、「去年担任だったので彼のことはよく知っているが、口数もさほど多くはなく、どちらかというと周りの後をついていくタイプだった。それが今では彼の存在感は圧倒的だ」と話す。「あのような張り詰めた空気の中でのプレゼンテーションでも、一度もセリフを間違えることもなく、自分が話す順番が回ってきた時に人が変わったようにすべての力を降り注ぎ、迫真の演技をした。あの姿には驚いた」(市川氏)